
2024年10月4日鑑賞。
確か私が学生だった頃…NHK日曜美術館で取り上げられて、知られざるスゴイ日本画家がいる…と話題になり画集も買って舐めるように見ていた記憶があります。
現在でも評価も高く、この展覧会は来場者も多いと聞きます。
無名とされていたものの、死後に再評価された…ゴッホと似たような印象を受けるのでしょうか?
今回は最初期(小学生時代から!)~最晩年までまさに「全て」を網羅した展示です。

代表作「アダンの海辺」をバックに撮影できる自撮りスペース
晩年、奄美大島で描かれた作品の印象が強烈でそちらのイメージが強いのですが…私は初期作を見て、田中一村の人間像が少し変わりました。
人間像が少し明瞭になったといってもよいかもしれません。
一村の父親が彫刻師(彫刻家という言い方ではない職人的なニュアンス)だったというのは初耳で、その家庭環境から英才教育を受けたというわけです。
それこそ子供のころから異常に達者であったことが作品からもうかがえます。

「菊図」 ※「八童」とは数え年で八歳のこと。父親が加筆した部分が気に入らず破ってあるという…後年までこの性格は変わらずということでしょう。
19歳で美術家年鑑に名前が載るほど早くにプロとしての活動を始めていて、それなりに支援者(パトロン)もついていたとのことですが…二十歳前後の作品を見たら…ねぇ…

「蘭竹図/富貴図衝立」
よく言えば「画面密度が高い」…なのですが、南画特有の文字もギッチリ、筆のストロークもギッチリで…正直に言いますよ…「暑苦しい」と感じました。
南画の古典を学んできたはずですが「自分は!」という意識が強すぎるとも言えるかな。
東京美術学校にストレート合格したのに2ヵ月で退学したというのも、他人に合わせることができない性格故に同級生、教授陣とも馴染めなかったのだろうと推測します。
それなりに支援者もいたのなら、美術学校で学ぶより作品を買ってくれる人を向いていれば良いと思ったのではないかと思います。
それなのに…パターンにはめる南画の様式から脱して、写実・写生の要素を取り入れようとした時、そこに馴染めない支援者と絶縁したというのも…我が強かったからなのでしょう。
ビジネス的な観点から言えば、自分の方針を変えたときに旧来の内容しか支持してくれない人ならば顧客から外れていただいて結構!新たな内容を支持してくれる人を相手にしていけばいい!…という考え方もありますね。
公募展に入選したのがたったの一回というのも、そうした我の強さゆえに公募展の組織に自分を合わせられなかったのだろうと思います。
2点出品して1点だけ入選した時、もう1点が落選したことが気に入らず入選した作品も辞退したそうで…。

「白い花」 ※青龍展に入選
私などは、公募展など所詮人間が選ぶので、審査員の方針が自分と会わなければ別の展覧会に出せばいいじゃない…と思うわけですが、一村はそれが許せなかったのでしょうね。
良く言えば、一村とその作品はその公募展のレベル・範疇を超えた存在だったということでしょうか。
妥協して審査員好みにしてまで入選したくはなかったのでしょう。
リアルに付き合いがあったら…一村は結構面倒くさい人じゃないのか?そんなイメージがわきました。
ちょっと画風が気に入って「一村さん、あなたの作品が気に入りましたので買わせてください」くらいの話なら良さそうですが…絵画論的な話になったら、一歩も持論を曲げなさそうな気がします。
「私の描く絵が分からないなら別に結構、分かる人に売るのであなたはお引き取りください」くらいの勢いだったのではないかと、勝手に想像しています。
それでいて、結構年齢がいっていても、南画的な作品を求められればそれを描いたりしていたことも分かります。
それは「絵描きとして食うためのリアル」だと感じましたね。
しかし、最後は奄美大島に渡って自分の信ずる方向性に全振りした作品群を生み出していったわけで、「食うための作品」とは切り離された純粋さがそこにはあると思います。
南国の濃密な森は、持ち前の高密度な描き方と親和性があるわけで、最終的には当然の帰結であったのでしょう。
技法としては、水墨で全体の明暗を組立てて、必要と思われる箇所に顔料をのせていった作品が多かったと思います。
細い葉の隙間から覗く細かい空間まできっちり描き込んだところに気づいた時、一村の凄みを体感しました。

「枇榔樹(びろうじゅ)の森」
それでも最晩年、代表作とされる画面は全体に顔料がのせられて濃密な仕上がりになっています。

「不喰芋(くわずいも)と蘇鐵」
生い茂る南国の植物、葉っぱの濃厚さがアンリ・ルソー的だと思うのは私だけでしょうか。
ルソーよりはるかに描写は達者ですけどねw
モチーフで印象的なのは「鳥」
軍鶏からスズメから奄美のアカショウビンまで。
アカショウビンはグッズ化されていました。

図録とアカショウビンを購入
他に、アダンの実のクッションが物販の棚に積まれていました。


日本画・洋画の区別なく絵画に興味のある方全員におすすめの展示です。
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