2023年9月21日鑑賞
同日「イヴ・サンローラン展」が始まったばかりでそちらの集客もすごかったですね。
近年「ナントカ美術館展」なんて企画があると…この春にやってた「ルーブル美術館展」が「愛を描く」というサブタイトルにしていたように何かテーマを決めることが流行っているようですね。
今回はイギリスはロンドンにあるテート美術館のコレクションから「光」の表現を軸にセレクトされた作品が並んでいました。
確か昔はテートギャラリーと呼ばれていたはずですが、近年は美術関連の様々な活動をプロデュースする組織として単に「テート」という呼称になっているそうです。
19世紀の発足当初から同時代の作品をコレクションするのが目的のひとつであったため現代アートまで網羅していて、本展示も18世紀から現代までのスパンで展開しています。
そうそう…半分以上の作品が撮影OKというのも面白いですね。
まず会場に入って…いきなりターナーの4連弾( ゚д゚ )
大作ではないものの、スクエアの画面が多い面白いチョイス。
ジョセフ・マロード・ウイリアム・ターナー
「湖に沈む夕日」1840年頃
モネの「印象、日の出」に直結すると思われる作品。
ジョセフ・マロード・ウイリアム・ターナー
「光と色彩(ゲーテの理論)―大洪水の翌朝ー創世記を書くモーゼ」1843年出品
なんというか…ぱっと見、何が描いてあるかよく分からないくらい自由なのがターナー。
そして結構珍しいかも…というブレイクの作品。
ウイリアム・ブレイク「アダムを裁く神」1795年
独特のクセのある画風です。
なんともパキパキした肉体表現はフュースリを想起します。
支持体は紙ですが背景部分にレリーフみたいな凹凸がついてたりします。
個人的な本展示のハイライトは…スコットランド美術館展で初めて見た、ジョン・マーティン。
今回はかなりの大画面!
ジョン・マーティン「ポンペイとヘルクラネウムの崩壊」1822年(2011年修復)
幅161.6㎝とかなり大きな画面。
空を洞窟のように覆う赤黒い雲…火山から吹き上がる溶岩がポンペイの街を焼いていく光景が緻密に描かれています。
画面手前には逃げてきた人々と避難する人々を乗せるべく終結してきた多くの船。
例えて言えばVFXを駆使したスペクタクルな映画の画面といったところでしょうか。
非常に現代的な表現に見えました。
稲妻の表現がまた…日本のアニメでありそうな格好の良さ( ゚д゚ )
「これも、ジョン・マーティンか?」と思ったら…
ジョゼフ・ライト・オブ・ダービー
「噴火するヴェスヴィオ山とナポリ湾の島々を臨む眺め」1776-80年
よく似た雰囲気の作品でしたが、作者はライト・オブ・ダービーでした。
こうした火山の噴火をテーマとした作品が流行っていたのでしょう。
ライト・オブ・ダービーといえば…18世紀啓蒙思想の流れから…科学的な視点から自然現象を、その姿そのままに表現した作家という印象を持っています。
この作品も噴火の部分も面白いのですが、個人的には海面の光の反射が興味深かったですね。
おそらく、筆の柄の先端か何かで絵の具をかき取ったのではないでしょうか。
ライト・オブ・ダービーでもう一枚。
ジョゼフ・ライト・オブ・ダービー
「トスカーナの海岸の灯台と月光」1789年出品?
太陽ではない光源、月光と灯台の人工の光。
18世紀に描かれた作品で、19世紀の写実主義や印象主義の前にこうした自然現象を捉える視点が芽生えていたのですね。
このくらいでもう…見たいものは見た!…という気分になりました。
自分自身の個人的な興味の重心がそこにあるのか!という発見です。
そしてターナーと同時代人のコンスタブルも。
数々の名所風景を描いた版画の展示もありましたが、油彩は小品が出ていました。
ジョン・コンスタブル
「ハムステッド・ヒースのブランチ・ヒル・ポンド、土手に腰掛ける少年」1825年頃
雲間から差し込む光の表現が「らしい」ですね。
コンスタブル的な流れから光の当たる雲の表現が秀逸な作品。
ジョン・リネル「風景(風車)」1844-45年 ※部分拡大
英国らしい曇りがちな空から漏れる陽光が家畜のいる水面に落ちている風景。
そして一部に光の当たった雲の量感がイイですね。
エヴァレット・ミレイの「らしからぬ」作品が…
ジョン・エヴァレット・ミレイ「露に濡れたハリエニシダ」1889-90年
森の中に身を置いて視線の先から差し込む光と、その光を浴びている植物。
ミレイ晩年の作品で、マチエールが独特ですね。
光の当たっている個所に白っぽく絵の具が盛られています。
よく見ると草むらの中に鳥がいます( ゚д゚ )
時に初めて見る作家の作品を「発見」することもあります。
展覧会告知でほぼメインビジュアルとして使われている作品。
ジョン・ブレット「ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡」1871年
陽光降り注ぐ海面です。
非常に狙いの明確な画面で…「よく描けている」作品ですね。
幅2m以上の大きな画面ですが、寄って見ると実に繊細な表現!
印象主義的色彩で英国的な細かさがあります。
ズバリ、印象派の作品も何点かありました。
その中でも、シスレーの実に生き生きとした作品が。
アルフレッド・シスレー「春の小さな草地」1880年
光と影が色彩で現わされている、シスレーにしてはかなりビビッドな画面。
カミーユ・ピサロ
「水先案内人のいる桟橋、ル・アーブル、朝、霧がかかった曇天」1903年
個人的には光というより空気感の画面だと思いますが…黒っぽい蟻みたいな人物がピサロっぽいなぁ…
最近、気になりだしたデンマークの画家ハマスホイも。
ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内、床に映る陽光」1899年
色味より明暗の表現です。
線が歪んでいるような気がしますが…キャンバスを張り直すと時にこういった歪みが出ると聞いたことがありますがどうでしょう。
ヴィルヘルム・ハマスホイ「室内」1906年
無彩色中心で明暗表現で構成された画面。
なんだか人物も家具も質感が大差ないですね( ゚д゚ )
後半は現代美術ですが…。
抽象が登場してきて、インスタレーションのような絵画・彫刻といったジャンル分けが曖昧になってきたらどうなるか?
言い方は悪いかもしれませんが「先にやったもの勝ち」になってしまったような気がしています。
ペー・ホワイト「ぶら下がったかけら」2004年
「ぶら下がった…」たしかにそうだよね…という作品。
こういうインスタレーションって、会場に依存する要素が大きいですよね。
グルハルト・リヒター「アブストラクト・ペインティング(726)」1990年
最近、人気のリヒターです。
具象~抽象をまたいで色々な作品を発表している方です。
本作は抽象(=アブストラクト)とは言っていますが、多くの人々が電車の窓から流れる車窓の景色を想起したのではないでしょうか。
現代作家で撮影禁止の作品が多かったですね。
デイヴィッド・バチェラー「ブリック・レーンのスペクトル 2」2007年
色とりどりのライトボックスを縦に積み上げた作品。
デイヴィッド・バチェラー
「私が愛するキングス・クロス駅、私を愛するキングス・クロス駅8」2002ー7年
なんというか…「これって、台車じゃないか!」と思った作品。
自分の仕事でもなじみのあるアイテムがアートになっているのか…と思った次第。
展示室最後の作品↓
オラファー・エリアソン「星くずの素粒子」2014年
現代の人気作家でしょう。
トラスに組まれた球体に当てられた光の反射が作品になっています。
会場最後の物販コーナーで…異彩を放っていた?!アイテム
リッチモンドの作品をあしらった男性用下着( ゚д゚ )
ネタグッズでしょうかね。
18世紀から現代まで。
200年以上の時間幅で作品が並んでいました。
面白い展示でした。
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HAATTI
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