2023年5月25日に見てきた展示です。
この時、新潟県出身の日本画家二人の特集展示が開催されていました。
橋本龍美(はしもとりゅうみ)と横山操のお二人です。
本記事はコレクション展示室で開催されていた横山操展についてです。
この新潟県立近代美術館と、新潟市の万代島美術館が共同で(?)持っているコレクションに横山操作品が多数あり、今回それらを全て出してきての展示とのことです。
新潟県吉田町生まれの日本画家、横山操は大画面の作品が有名ですね。
モチーフも戦後の建設現場や火山などダイナミックな自然を取り上げ、非常に近代的なセンスを持った方でした。
「自画像(素描)」1940年
20歳当時、画学生時代の作品です。
「隅田河岸」1940年
最初は洋画を描こうとしていたそうで、本作など洋画的な構図に見えます。
「渡船場」1940年
川端龍子が主宰する青龍社の展覧会に入選した作品。
縦横斜めの線がリズミカルに組み合わさった構図が面白い。
川岸の小屋という地味なモチーフですが、表現の仕方でこれだけ面白くなるんですね。
ところがこの後徴兵され、戦後もシベリア抑留に遭ったそうです。
ようやく帰国できてから、青龍社の展示に出品した作品。
「カザフスタンの女」1951年
戦後、ソ連に抑留されてカザフスタンの炭鉱で強制労働をさせられていたとのことですが、その地の女性をモチーフとした作品です。
赤と黒、ゴールゴ的な茶色に白と、後年の色使いがここで出そろっているようです。
横山操で人物を描いた作品は珍しいように思います。
「港」1958年
手前の赤い物体が非常に印象的な作品。
後方の建物・水平線・岸壁の直線の中に大きな丸い物体が対比させられるように見えます。
この赤いものは係船柱(けいせんちゅう)、ボラード、とか呼ばれるそうですが…こうしたものをモチーフにするなんてそれまでなかったのではないでしょうか。
「MADO(窓)」1959年
非常に実験的な作品。
モノクロの写真作品がヒントになっているのではないかと推察します。
暗い室内から明るい外をのぞいた光景に見え、3つの画面を組み合わせる構成も斬新。
結果、抽象的な印象も受けます。
「岳」1959年
銀灰色の空に黒っぽい岩山がそそり立つ画面。
細く入った赤がポイントとなり、作品の温度を上げているかのようです。
あと、これらは代表作になるのでしょう。
火山という激しい自然を描いた作品群。
「炎々桜島」1956年
モノトーンに近い色彩で表現された火山、桜島。
黒の線が「強い」ですね。
「新山」1958年
盛り上がる溶岩、立ち上る水蒸気。
水蒸気を主役にすることで、画面が抽象的に見えてきます。
抽象表現主義の影響があるのでは?…と感じます。
「十勝岳」1962年
大きすぎるとして、縮小を求められたという曰く付きの作品。
それをきっかけに青龍社を脱退したそうです。
大自然の迫力を存分に表現するためには、大きな画面が必要だったのでしょう。
ものすごいスケール感です。
自然物だけでなく、戦後日本のインフラ系モチーフをモニュメンタルに表現したシリーズも良いです。
「送電線」1960年
「送電設備」と言いたくなる画面ですが、縦横で大きく組まれた構図に少し斜めの要素を入れて動きを出しています。
特に中央から斜めに走る赤い線が効いていますね。
具象と抽象の上手いバランスが魅力。
「高速四号線」1964年
まさに「インフラ!」というのが本作。
高速道路の高架の橋脚です。
その建設工事現場じゃないですか!
鋭い黒の線で表わされたクレーン等に銀灰色の空…中央に茶の橋脚本体。
全体で3色しか使っていないことで明快さと力強さが出ますね。
「TOKYO」1968年
もう黒と銀の二色で構成されています。
なぜ「東京」ではなく「TOKYO」なのか?
戦後復興でシンボリックな東京タワーがつくられ、国際的にエッフェル塔のあるパリにも比肩しうる都市になったということを言いたいのだと思います。
「雪峡」1963年
火山ではありませんが、自然の迫力を示すモチーフとして、降りしきる雪を選んだ作品。
吹雪いて遠くがかすんでよく見えない…こんな光景は新潟県人なら見たことあるでしょう。
富岡総一郎の作品にも言えますが、雪の景色は抽象度が高くなり、シンボリックな作品になりますね。
「ふるさと」1966年
先に挙げた大作とは打って変わって、穏やかな新潟の光景でしょう。
やはり、黒・ゴールド~茶・シルバーという色使いが見られます。
「親不知夜雨」1970年
水墨もやるんですねぇ~、と感心した作品。
雨の湿度感がよく出ています。
かなり伝統的な表現になっていると思います。
器用な一面もあるようです。
最後、普通は版画や素描の展示されることが多い展示室で…。
中央公論の表紙絵
雑誌の表紙ほぼ原寸かな?というサイズで国内外の景色が描かれています。
小さい中にも密度感があり、日本画らしからぬモリモリのマチエールが見られます。
以下、個人的に気に入ったものを…。
晩年、酒の飲みすぎから脳卒中で半身まひになりながらも、利き腕でない左で描いたというエピソードもかなり衝撃的です。
全体に「これは、こうなんだぁー!」という言い切りが強い作品ばかりで、画面の中で構図を構成する要素(線や色面)が明確な意図のもとに整理されている印象でした。
細かい部分をチマチマいじらない!絵の骨組みはこれだ!…バシッ!!…と擬音すら聞こえそうです。
作品リスト(PDF)
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