2023年4月19日鑑賞。
竹橋にある東京国立近代美術館の70周年記念展だそうです。
上野の東京国立博物館の国宝展の流れから企画されたのかな?
国宝が古代からの美術品が対象なのに対して、重要文化財は近代以降の作品が対象になっているようです。
本展示は「重要文化財全68点のうち51点が終結」という煽り文句が目を引きます。
…が、実際に見に行くと(51点もあったか?)と思うことでしょう。
それはその通りで、期間によって展示替えがあり同時に51点は見られないようになっているのです。
なぜそんなことになるのかと言えば、文化庁による「国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項の改訂について(通知)」によります。
国宝・重要文化財の公開に関する取扱要項改訂【概要】
これは俗に「60日ルール」と呼ばれるもので、国宝・重要文化財の公開は年間60日間が基本とされています。
海外の美術館では超有名作はいつでも見られることが基本のようですが、日本の例えば東京国立博物館では教科書にのるような作品は行ってはみたものの展示していないものが多いのです。
結果、お目当ての作品が全て見られない!という現象が常に発生しているわけです。
この状況については、山田五郎氏もYouTubeで問題提起されていました。
とはいえ、せっかく日本近代美術市場の重要作がかなりの数集まっていましたので楽しみに見に行ったわけです。
作品リスト
会場入って早い段階で横山大観の「生々流転」がありました。
非常に有名な作品、絵巻形式で水が水蒸気・雨から川になり海に流れ込むその循環の様が、実に40mという長さをもって表現されています。
もう全部見られること自体がレア。
理由は分かりませんが、撮影禁止でした( ゚д゚ )
映像が公開されていますので、ご紹介しておきましょう。
↓
展示の前半は日本画でしたが、個人的に「ダントツだな」と感じたのが…
河合玉堂「行く春」でした。
(向かって)右半分
(向かって)左半分
桜部分クローズアップ
胡粉(?)の盛り上げで花びらが立体に見えてきます!
どうも日本画のセクションではテンション上がりきらず洋画へ
個人的、見たい作品NO.1が何かといえば…
コレです!「鮭」by高橋由一
西洋画ならばこれだけリアルな表現ができる!…と、意気込みが充満したような作品ですが、実物大以上の大きさが印象的でした。
そして、浅井忠の「収穫」
バルビゾン派、ミレー的な主題ですね。
堅実な表現は個人的に好みです。
明治時代、薩長閥出身であるが故に重文になったと思われる作品。
黒田清輝の「湖畔」
私、てっきり水彩だと思っていたくらいの淡い色彩。
藤島武二「天平の面影」
こちらはアーティゾン美術館所蔵の作品。
写真でしか見たことなかった作品の実物が見られました。
自らの民族的なテーマを取り上げるロマン主義的な作品ですね。
岸田劉生「道路と土手と塀(切通之写生)」
作者のひ孫と私は同級生、昔私の勤務していた会社の近所である代々木の風景…となにかと縁を感じる作品です。
1915年作とのことで、ヨーロッパではキュビズムとか伝統を破壊しつくすのではないかという勢いで変化してきている時代に、クラシックな写実性を持った画風は当時、賛否が分かれたようです。
同じく岸田劉生作の「麗子微笑」
有名な横長デフォルメ、編み物の表面感が印象的。
教科書で見た覚えがある
中村彜「エロシェンコ氏の像」
おつゆ塗りで薄く色を重ねた画面、ルノワール風。
人物の雰囲気がいいですね。
工芸作品
鈴木長吉「十二の鷹」
様々な姿の鷹が12羽並んでいます。
なんだか説明できませんが面白く感じました。
明治時代に西洋彫刻、それも裸婦像を作ろうとすると色々大変だった…という例。
新海竹太郎「ゆあみ」
西洋では女神とすれば裸体もOKなわけですが、当時の日本人にそんな感覚はないわけです。
そこでどうしたかと言えば、入浴時という設定で薄い布で身体を覆ったという設定にしたわけです。
それでも第1回文展で展示されたときは「けしからん!」と批判され、目立たない場所に移動させられたそうな。
「問題作が傑作になるまで」という展示の副題通りのストーリーですね。
重要文化財はなんと美術館の1階ワンフロアのみ。
結構、あっけなく終了。
物販の出口には重文グッズのガチャガチャも( ゚д゚ )
正直、重文は点数が想像以上に少なく感じて、物足りないなぁ~と思いつつ、4・3・2階のMOMATコレクションへ。
割と「お馴染み」な作品も多いのですが、後半の特集展示が面白かったですね。
修復に関する展示でも岸田劉生の作品が…
岸田劉生「田村直臣(なおみ)七十歳記念之像」
小花を持った、ちょっと可愛らしさすら感じる男性像。
以前、東京ステーションギャラリーでの岸田劉生展で見たことある作品。
純然たる写実ではなくて、デフォルメされていますね。
岸田劉生が娘の麗子を描いた最も早い時期の作品ですね。
「麗子肖像(麗子五歳之像)」
後の横長デフォルメはまだ見られないようです。
藤田嗣治も何点かありましたが、戦争画で初見の作品。
「ソロモン海域に於ける米兵の末路」
19世紀に西洋で流行った「難破」テーマを下敷きにしているのでしょう。
太平洋戦争真っただ中で顔料品質が悪く発色が悪いようですが、ジェリコーの「メデューズ号の難破」のような色効果になっているように見えました。
現代作家の作品もありました。
木下晋「仰臥」
大画面に鉛筆だけで写実的にクローズアップされた構成で描かれた作品。
千葉正也「平和な村」
かなり大きな画面に、写実的なんだけど不思議なモチーフ配置。
様々なモチーフが画面いっぱいに並んでいる様はヒエロニムス・ボスを想起しました。
一通り見て、あらためて上野にある美術館より通好みの展示が多いなぁ…と思いました。
定期的に見てみたいものですね。
それにしても文化財展示の60日ルールって何とかならないもんですかね。
**********************
国立近代美術館のガイド本
岸田劉生に関する本
コメント