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2023年3月18日~6月11日の期間、国立西洋美術館で開催されています。
ブルターニュというフランスの一地域を軸に組み立てられたちょっと珍しい展示です。

何故にブルターニュ?というところですが…19世紀以降に多くの芸術家がこの地を訪れ多くの作品を残した…というお話。

言われてみればそれ以前は中央画壇のあるパリ周辺でないと一流の芸術家はなれなかったように見えます。
18世紀までは王侯貴族相手に作品を制作していたのが、革命のあと帝政になり歴史画が最高位のジャンルとされたあたりまではパリでないと…という状況であったのだろうと思います。

その後の歴史では、ブルジョワ中心の市民→労働者階級と権利意識がより広範な層に広がった結果、画題も農民などの労働者や普通の風景などに展開していったわけです。
画題の展開にはターナーに代表されるイギリス発祥のピクチャレスク(絵になる風景、今風に言えば「映える景色」)やロマン主義の影響もあるでしょう。
実際、展示の最初の方で、ターナーがブルターニュの都市、ナントを描いた水彩作品の展示もありました。
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ウイリアム・ターナー「ナント」1829年

さらに産業革命から交通機関の発達があり、鉄道でより短時間で遠方まで移動できる環境が整いました。
「行けるなら行ってみよう」というのは自然な発想だと思います。
展示序盤には当時の旅行関係のポスター、パンフレットもありました。

そして時代的に印象派がその時期に登場して、モネがブルターニュの風景を作品にしています。
本格的な作品展示もモネから始まるような構成です。

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クロード・モネ「ポール=ドモアの洞窟」1886年
強い日差しに照らされた岩と鮮やかなブルーの海が非常に印象的な作品です。
モネの海景画でもピカイチではないかと思います。


今回の売り文句の一つが「ゴーガン作品が12点」ということになっています。
一部展示期間が限定されている作品がありますが、まあ10点は見られるはずです。

ゴーガン関係の資料によく出てくるポン=タヴェンという地名はブルターニュ地方の町のことです。
そこでゴーガンは白頭巾の女性像をたくさん描いています。
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ポール・ゴーガン「ブルターニュの農婦たち」1894年
オルセー美術館所蔵の一枚。
色面で構成された画面、なにか意味ありげに話しているような女性二人。
なぜか右側の女性の足の形に目が行きますね。

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ポール・ゴーガン「海辺に立つブルターニュの少女たち」1889年
西洋美術館所蔵のある意味「お馴染み」の作品。
本作は少女が二人描かれていますが、やはり足の形に目がいきます。


ゴーガンに影響を受けた画家たちはその装飾性を引き継いでいきます。
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ポール・セリュジエ「ブルターニュのアンヌ女公への礼賛」1922年 
15~16世紀の歴史的な主題を装飾的な画面で表現しています。
タペストリーを絵具使って手描きした…感じです。


ナビ派として知られるモーリス・ドニの大きめの作品。
母と子の群像ですが…
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モーリス・ドニ「若い母」1919年

ドニのこの作品、色彩はやや平面的に処理されていますが、描線自体は立体感を示唆する抑揚を持っています。
で、どうにも目が行ってしまったのが、足元のウサギ。
紫っぽい色も面白いのですが、なんともムキムキした肉感が出ていると思いますが、いかがでしょうか。
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今回、最大の作品。
人物はほぼ等身大ではないかと思われるほど。
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シャルル・コッテ「悲嘆、海の犠牲者」1908-09年

海難事故で無くなった船乗りを囲んだ家族が悲嘆にくれるという画面です。
死せるキリストを前に人々が悲しむピエタの場面そっくりで、宗教的な感情も込められているように思います。

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リュシアン・シモン「庭の集い」1919年
集う人々がいて、ステージ上に人工的な光源があり、スポットライト的な光の表現が実に「近代的」


最後のパートにはブルターニュを訪れた日本人画家の作品がありました。

まずは、昔からブリヂストン美術館(現アーティゾン美術館所)で見られた、黒田清輝の作品。
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黒田清輝「ブレハの少女」1891年
帰国後に日本の洋画界を牛耳る黒田ですが、この頃はまだ若く、ブルターニュ地方の少女をビビッドなタッチで描いています。
後年の作品より、こっちの方が全然良いと思います。

黒田と同時期に滞在していた久米桂一郎の作品。
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久米桂一郎「林檎拾い」1892年
印象派に影響を受けた外光派的な表現です。
かがんだ人物のポーズが硬いように見えるのは私だけ?

ブルターニュの風俗を日本画の屏風で表現した珍しい作品。
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小杉未醒(放菴)「楽人と踊子」1921年頃

ブルターニュというフランスの一地方を軸に多彩な作品、資料を集めた展示でした。
面白いのは、結構撮影可能な作品が多かったこと。
こういう企画もいいですね。

展覧会フライヤー(ちらし)PDFデータ

作品リスト(PDFデータ)

展覧会公式サイト↓



同時に新館の版画素描展示室で見られた「指輪 橋本コレクション」
下のインスタ投稿は動物、昆虫モチーフのものを取り上げたもの。

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