2023年3月31日鑑賞
(会期は3月1日~6月12日、巡回展は京都京セラ美術館で6月27日~9月24日)
ちょっと面白い視点で組み立てられた展示です。
それこそ「山ほど」名品を所蔵するルーブル美術館です。
目玉作品を中心に組み立てればいくらでも企画が立てられるってもんですが、近年は表現するテーマを切り口にした内容でも来てますね。
(本ブログでも2018年夏の肖像をテーマにした展示の記事あり)
今回はズバリ「愛を描く」
風景画や人物画といったモチーフの種類を切り口にした展示なら聞いたことあるようにも思いますが「テーマは愛」って…珍しいですね(宇■戦艦ヤ▼トくらいかなw)
「愛」と言っても、西洋では色々な「愛」がありまして…神話で語られる「愛」、親子や家族の「愛」、男女の間の「愛」など、さらに「愛」とはいえ幸福だけでなく悲劇につながることもあるということで、意外と多様な表現があるものですね。
今回の目玉作品はブーシェにフラゴナールと、ロココ期が大きく取り上げられているのも珍しいです。
あと、肌色率が高めですw
会場に入ると真っ先にブーシェの大きな画面が!
フランソワ・ブーシェ「アモルの標的」1758年
ロココ最盛期のブーシェの作品で浮遊感たっぷりで神話の愛の発生場面を表現しています。
脚の斜め方向への流し方がザ・ロココ!
この後、神話の「愛」における欲望むき出しの場面などを表現した作品が並びます。
女性を襲ったり、略奪したりといったテーマもあります。
正直、それほど有名でない(あえて言えば二流の)画家の作品も交えながらの構成ですね。
そんな中でも有名画家の作品が…
アントワーヌ・ヴァトー
「ニンフとサテュロス」
1715-1716年頃
ロココの幕開けを告げたとされるヴァトーの作品。欲望のまま動くサテュロスがニンフにちょっかい出すという場面。
サテュロスの身体は男性的なムキムキ感に満ちています。
それがニンフの白い女体と好対照をなしています。
展覧会中、最後のセクション19世紀の作品では男の身体がすらりとした少年っぽいニュアンスで描かれています。
時代の流れなのでしょう。
大きい2つ目のセクションはキリスト教における「愛」
キリスト教世界においては「無償の愛」「神への愛」「自己犠牲」「殉教」…という崇高なものになっています。
一般人が共感しやすいのはやはり聖母子の親子愛ではないでしょうか。
サッソフェラート「眠る幼子イエス」1640-1685年頃
初めて名前を聞く画家ですが、自然で親しみやすい表現の聖母子像ですね。
時代的にはバロックですが、きつい明暗対比もなく画面全体に光がいきわたって穏やかさを感じます。
3番目のセクションは俗世間に生きる人間の愛。
17世紀、いわゆる黄金時代のオランダでは経済力をつけた市民が購入する、一般人を描いた絵画作品が多くなります。
聖像を多用しないプロテスタントの影響もあると思います。
フェルメールも描いた室内画も流行った時代です。
今回並んでいた作品の中でも質感表現がピカイチだった作品がコレ。
ハブリエル・メツー
「ヴァージナルを弾く女性と歌い手による楽曲の練習」または「音楽のレッスン」
1659-1662年頃
親密な雰囲気の男女を楽器演奏場面で表現しています。
それにしても女性のスカートが白く光っている様が冴えわたっていますね。
このセクションでは「男女の関係を匂わせる」作品ばかりですが…次はあからさまな名作が!
ジャン=オノレ・フラゴナール「かんぬき」1777-1778年頃
おそらく本展示で一番の目玉作品。
18世紀には啓蒙思想からキリスト教的なガチガチの規範を批判的にとらえ、恋愛の奔放さも肯定される考えが流行ったそうです。
そんな思想を反映したかなりエロい作品です。
もう一つあからさま系の目玉作品。
フランソワ・ブーシェ「褐色の髪のオダリスク」1745年
ブーシェお得意の緑がかったブルーも鮮やかな画面。
お尻丸出しの女性を恥ずかしげもなく描いています。
注文主はおそらく自室でこっそり見ていたのだろうと思います。
最後のセクションは撮影可能。
19世紀ロマン主義を中心とした作品群…ですが
「アモルとプシュケ」または「アモルの最初のキスを受けるプシュケ」
1798年
本展のメインビジュアルに使われている作品です。新古典主義の硬そうな人体が個人的には気になりますが、若者の純愛を表現するにはこの硬さも悪くはないのかな?と思います。
クロード=マリー・デュビュッフ
「アポロンとキュパリッソス」
1821年
解説では「両性具有的」とか描いてますが、ミケランジェロ的ムキムキ男性像へのカウンターでしょう。しかもすらりとした身体の男性二人が画面に登場していて…こりゃ現代日本的に言うところの「BL」じゃないでしょうか!
LGBTなんちゃら…のはしりとも考えられますね。
そして最後に展示されていた大画面。
アリ・シェフェール
「ダンテとウェルギリウスの前に現れたフランチェスカ・ダ・リミニとパオロ・マラテスタの亡霊」
1855年
暗闇をバックに絡み合う白い裸体は亡霊で、傍らに立っている二人がダンテとウェルギリウスというわけです。
悲劇的な愛の結末を表現しているようです。
古典主義的なカッチリした表現で、ロマン主義的な主題を扱っています。
…と一通り見ていくと、知らない画家が多く作品的にも一流ばかりとは思えないわけですが、ルーブル側から「日本人は知らないだろうけどウチにはこんな作品もあるのだよ!」と言われているような気がしました。
ひとつ後から思ったこと、この展覧会では音声ガイドはあった方が良いということ。
「愛」がテーマで、それぞれの作品にストーリーがあり、それを知らないと十分に理解できないことがあるからです。
作品にはかなり細かくキャプションはついていますが、観覧者が多数いる場合は音声の方が良さそうです。
学芸員さんによる本展の企画意図等の解説。
なんとYoutube上、本展示の全作品を紹介する動画がありました( ゚д゚ )
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本展の解説本、2023年注目の展覧会紹介ムック
ルーブル美術館に関する書籍
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