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2022年10月29日観覧

国立西洋美術館が設計者であるル・コルビジェの当初構想に近づけるべく改装を行った、リニューアル後第二弾の企画展。

前回の企画展「自然と人のダイアローグ」はドイツのフォルクヴァング美術館とのタイアップでしたが、今回もドイツにあるベルクグリューン美術館とのタイアップだそうです。

この美術館はベルクグリューンという画商が絵画の売買をしながら自分で収集していった20世紀美術の作品群を収蔵しているとのこと。

本展ではピカソを軸にジョルジュ・ブラック、パウル・クレー、アンリ・マチス、アルベルト・ジャコメッティの作品が並びます。
これに冒頭セザンヌの作品があって、ピカソらのキュビスムの源泉が示されます。

本展時は一部(ブラックの作品等)を除いて基本的に撮影OKです。
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例によって地下からスタート。
最初のセクションは「Ⅰ.セザンヌ」

どうせ絵画は平面なのだから、平面として画面が成立すればいいんじゃね!というのがセザンヌの作品。
彼は自然な立体感を表現することが苦手だったので、結果そうなったという説を唱えているのは山田五郎氏ですが、私もそう思います。

人間も石膏像も質感に区別ないセザンヌでも、珍しく人間っぽく仕上がった作品。
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ポール・セザンヌ「セザンヌ夫人の肖像」1885-1886年
画面下側は意図的な塗り残しでしょうか?


そして…今回のメインであるピカソ。
第2セクション「Ⅱ.ピカソとブラックー新しい造形言語の創造」
※ブラックの作品は撮影禁止でしたので画像はありません

初っ端に珍しい青の時代の作品が!
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パブロ・ピカソ「ジャウメ・サバルテスの肖像」1904年
この頃は貧乏生活だったのでしょう。
愁いを帯びた青い画面は後年の作品では見られない要素です。

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ピカソ「座るアルルカン」1905年
軽業師と翻訳される「アルルカン」はピカソが多くの作品で描いたモチーフ。
インクと水彩で描かれているのに実にコクのある画面。

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ピカソ「洋梨とリンゴのある果物鉢」1908年
かなりセザンヌ的な表現の静物画です。
キュビズム苦手な私には比較的安心して見られる作品。

そしてキュビズムが進んだ時期の風景画が ↓
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ピカソ「丘の上の集落(オルタ・デ・エプロ)」1909年
なんだか多面体が集まったように見えますね。
これだけ形を解体しても一応風景に見えると思いますのできわどい具象絵画なのでしょう。
この辺も個人的にギリ見られる作品ですが、これならいっそのこと抽象に行っちゃえばいいのに…なんて思ったりします。

キュビズム始めてしばらくは線や陰影を黒っぽく表現することが多かったように見えましたが、ある段階から色面を意識した画面に変わっていったようです。
1920年代になると…
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ピカソ「青いギターのある静物」1924年
青、赤茶、白といった色面で組み立てられた画面です。
絵具の層を引っ搔いて線を表現していて、ピカソの技量もわかります。


3番目のセクションは「Ⅲ.両大戦間のピカソ―古典主義とその破壊」
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ピカソ「窓辺の静物、サン=ラファエル」1919年
古典的な表現の窓に、キュビズム要素の濃い静物が組み合わさっている画面。
普通の具象に揺り戻しが起こった感じ?!

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ピカソ「彫刻家と彼の彫像」1933年
古典的表現というか、モチーフそのものがすでに古典の彫刻家とその作品。
特に彫刻家の立体的な存在感に感心しました。

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ピカソ「座って足を拭く裸婦」1921年
キャプションではルノワールの影響とありますが、日常的な動作の裸婦というとドガの影響かな?と思ったりもしますが…
本作はどっしりした存在感が際立ちます。
しかもそれをパステルで表現しているところに技量の高さを感じます。

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ピカソ「ミノタウロマキア」1935年
エッチング作品。
制作年の近い「ゲルニカ」と共通した要素(牛、少女の持つろうそく?=弱い光)がある作品ですね。

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ピカソ「水差しを持ったイタリア女」1919年
上手い素描ですね!
古典絵画に出てきそうな女性、ちょっとやろうと思えばこういう描き方もできてしまうのがピカソです( ゚д゚ )


4番目のセクションは「Ⅳ.両大戦間のピカソー女性のイメージ」

ここで、展覧会のメインビジュアルになっている作品が!
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ピカソ「緑色のマニキュアをつけたドラ・マール」1936年
形の改変自由自在のピカソですが…まあ女性だなとわかる作品。
一応、目もパッチリに描かれてます。
当時の恋人だったので、ある程度可愛らしく描いたのでしょう。


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ピカソ「黄色のセーター」1939年
画題から画面の中心は黄色のセーターなのかもですが…それを着ている女性の目元の可愛らしさも表現されていると感じました。
こういう作品って描きながら…「パブロ!私そんなんじゃない!「しょうがねーなー、目はこんな風でどうだ?カワイイだろ」…とか会話があったんでしょうか?


ピカソの次はパウル・クレー
作品点数はかなり多いです。
第5のセクション「Ⅴ.クレーの宇宙」

割と小さめの作品が並びます。
油彩のみの作品は少なく、水彩や「どうやって描いたんだ?」と言いたくなるものが多いです。
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クレー「夢の都市」1921年
水彩で濃淡のグラデーションを作り、暗闇の中の光…的な表現になっています。

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クレー「小さな城 黄・赤・茶色」1922年
キュビズム的に形を解体されたお城、暖色系のグラデーションを駆使して表現されています。
キャプションを見ると、油彩も水彩も使われているそうで…どうなってんでしょうかねぇ?

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クレー「Gの一角」1927年
題名は謎めいていますが、画面は地面に建物が建っているように見えます。
「油彩転写素描・水彩」となんだかわからない技法で描かれています。
私自身はできない不思議な色使いですが、面白いですね。

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クレー「植物と窓のある静物」1927年
クレーには珍しい(?)油彩作品。
モチーフは抽象化されていますが、画面のマチエールは堅牢そうに見えます。

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クレー「ネクロポリス」1929年
ネクロポリスとは共同墓地、集合墓地あたりの意味らしいです。
画面はピラミッドを想起させる形がほぼ抽象的に表現されています。
油彩作品。

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クレー「雄山羊」1921年
山羊と人物(女性?)のモチーフ。
油彩転写素描と謎技法+水彩

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クレー「知ること、沈黙すること、やり過ごすこと」1921年
ちょっと不思議系な人物シリーズ(?)
様式化された人体表現ですが…悩める女性像なのかな?

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クレー「封印された女」1930年
これも悩める女性像なのでしょうか。
線がシンプルになっていくと、漫画的な方向に向かっていくような( ゚д゚ )

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クレー「少女たちの光景」1923年
例の油彩転写素描に水彩で描かれた作品。
画面中央にスポットライト的な光が見えます。
人物の上半身・下半身が分かれているように見えるのはなんででしょうか?

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クレー「口数の少ない倹約家」1924年
クレーの自画像じゃないかという作品。
文字(画題の単語の略らしい)も含めた画面構成が面白い。

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クレー「朝食時の観察」1925年
何と言いますか…ニワトリと卵…朝食で食べられてしまう卵への目線ですかね。
黒い闇のような背景から浮き出すような描写が印象的。

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クレー「子供の遊び」1939年
晩年の作品で、シンプルな線が子供のような無邪気さを表現しているように感じます。


6番目のセクションは「Ⅵ.マティスー安息と活力」

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マティス「家に住まう沈黙」1947年
マティスの思い切りの良さが目いっぱい出てます。
紙に墨でザックリ描かれていますが…一体、何分で描いたのだろうと思ってしまいます。
線の勢いからして相当なスピードで描いたのだろうと推測します。

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マティス「青いポートフォリオ」1945年
マティスお得意の色面で見せる画面。
フォービズム的な赤と青の対比が強いが、ピンクを挟んだり絵の具の厚さを調整したりしてまとめている(と思います)

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マティス「ニースのアトリエ」1929年
赤が目立つけど、全体にやや優し気なトーンで描かれています。
室内画というのもマティスに多いかも。

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マティス「植物的要素」1947年
色面での表現を追求していったら…切り絵になっちゃったという作品。
モニョモニョした形の植物の葉らしきモチーフは有名な「ジャズ」の連作でも見られますね。

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マティス「縄跳びをする青い裸婦」1952年
裸婦が縄跳びなんてするか?!な~んて疑問を呈するのも野暮というもんですかね。
完全に二色に分かれた画面、一見自在に切り抜かれたように見える人体もよく見れば何枚かの紙片を貼り合わせています。
それにしても人体の形を改変する度合いはピカソにも負けていませんね。


最後7番目のセクションは「Ⅶ.空間の中の人物像―第二次大戦後のピカソ、マティス、ジャコメッティ」
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ピカソ「本を読む女」1953年
背中にゴジラみたいに角状のものが生えてる?あるいは毛足がめちゃ長いボアフリースのベストでも着ているのか?…な~んて思ったりしちゃったりなんかして(笑)
ただ、「ちゃんと読んでいる感」は出てますね。


ジャコメッティの作品も
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ジャコメッティ「広場Ⅱ」1948-49年
人体の表現をシンプルな方向に突き詰めて行ったら、棒人間になってしまった( ゚д゚ )

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ピカソ「闘牛士と裸婦」1970年
最後に展示されている作品。
ピカソが多く描いた「画家とモデル」モチーフの一種の変形かも。

かなり大きな画面ですが、実物を見ると絵の具の塗りの厚さが自在に使い分けられています。
女性の輪郭線は薄く溶いた絵具であまり強くなり過ぎないように描かれています。
女性右の赤は厚めに絵の具が塗り込まれていますが、特に右下の緑(芝?)は透けるほどです。
かなり計算しながら描かれていることはひとつの発見でした。

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ピカソ関連書籍


パウル・クレーの理論書


アンリ・マティスの画集(Kindle)