2022年10月29日観覧
西武池袋線、中村橋駅より徒歩数分の立地にある練馬区立美術館が会場です。
前庭が公園になっていて、訪れた日は近所のちびっ子とその親御さんでごった返していました。
チケットは当日、大人1000円と近年の傾向からすればかなりリーズナブル。
入口すぐの窓口でチケット買って…横を見ると第一展示室があり、まずはそちらへ。
場内は撮影禁止。
全体にキャプションが多く、色々言いたい!オーラが発せられている展示でした。
美術館による展覧会紹介動画
TOKYO ART BEATに詳細を紹介する記事がありました。
最初、第1章「クールベと印象派のはざまで」から…
19世紀フランスにおいて、写実主義→印象派という大きな流れがありますが、マネはどうなのよ?!という話。
写実のクールベから印象派のモネ、ピサロ、シスレー、ルノワール等とマネの主に初期作を並べてその辺を問いかけてきます。
クールベは「見たまんまってこうだろ!」だし、印象派は「屋外の実際の光の中ではこう見える!」が基本だと思うのですが…マネって過去の名作からの引用がやたら多くて美術史の流れを常に意識しているような気がします。
もっと言うと、見えたままよりも画面を作る意識が強いと思います。
この章で一番気になった作品は…
メアリー・カサット「マリー=ルイーズ・デュラン=リュエルの肖像」
1911年 パステル
吉野石膏コレクション蔵
有名な画商、デュラン=リュエルの孫らしいですが、とてもフレッシュな画面です。
ブルー・ピンク・茶(に犬の黒)の色彩がパステルならではの発色で表現されています。
第2章は「日本所在のマネ作品」
エッチングやリトグラフといった版画が多いのですが、かなり頑張って集めたであろうマネ作品が並びます。
中心となるのはやはりこれでしょう ↓
「散歩(ガンビー夫人)」1880-1881年
東京富士美術館蔵
全体的には緑と黒の色面対比。
黒の中にもよく見るとニュアンスがあることが分かります。
有名なベルト・モリゾの肖像でも顕著ですが…マネは黒の使い方に冴えが見られます。
その源流はスペイン絵画の黄金時代に見られる影の黒やカトリックの衣装の黒でしょう。
浮世絵の色面による見せ方もあると思われます。
もう一点、油彩の女性像がありました ↓
「イザベル・ルモニエ嬢の肖像」1879年頃
吉野石膏コレクション蔵
マネらしいざっくりした筆致が目につきますが、個人的に注目したのは頬~首~肩の輪郭線が非常に注意深く描かれているように見える点です。
この章では版画が多く、油彩画の代表作の版画化作品が一通り並んでいました。
マネによるエッチング作品はかなりあっさりした線での表現が多いのですが、その中で高密度で異彩を放っていたのがこの猫の作品 ↓
「猫と花」(シャンフルーリ著「猫」のための挿絵)1869年
町田市立国際版画美術館蔵
第3章「日本におけるマネ受容」
フランスにおいてマネの影響は相当あったでしょうから、19世紀~20世紀前期に日本人画家が直接間接的にマネの影響を受けるのは当然といえば当然。
渡仏した日本人画家の作例として ↓
安井曾太郎「水浴裸婦」1914年
アーティゾン美術館蔵
木々の中の水辺という舞台設定は確かにマネの「草上の昼食」ですが…
裸婦そのものは古典的な描き方をしていた時期のルノアール的ですし、青、緑主体で表現された全体の空間感はセザンヌ的に見えます。
この方はすごく器用なのでしょう。
それ故、色々なフランス画家の要素を上手く(?)取り入れられたのだけど、まだ未消化で影響がモロに見えすぎですね。
この後、自分のスタイルを確立するには相当の努力があったのだと思います。
画題からしてかなりモロなやつ ↓
石井柏亭「草上の小憩」1904年
国立近代美術館蔵
この方は渡欧したことあるのですが、この作品の制作時点ではまだ行ったことはなく、おそらくマネの作品を図版か何かで見たのだと思われます。
草の上に座る数人の人物という要素を日本の景色に置いた作品。
それ以上の類似点はありませんね。
それより油彩で描いて、そのマチエールの凹凸を使ってオイルパステルで点描的に色を置いたところが興味深いです。
その他、確かにマネの要素が入っているよね…という作品が数点ありましたが、個人的に見られて良かったのがこの作品 ↓
小磯良平「斉唱」1941年
兵庫県立美術館蔵
有名な作品でしょう。
戦時色が濃くなった時代、裸足の女学生が「斉唱」している場面。
衣装は質素な印象の黒ですが、その黒の中のニュアンスがマネの影響か?前出の「散歩」参照
人物を平面的に横に並べる構図はマネの初期作っぽいかもしれません。
よく言われる「同じ顔が並んでる」という話ですが、これはファン・アイクのゲントの祭壇画に描かれた歌う天使たちの影響だと思います。
素足の比較的ざっくりした筆致はマネ的かも。
その他、マネを紹介した昔の日本の印刷物などかなり多く並んでいました。
が、全部しっかり見るにはそこそこ体力がいるでしょう(笑)
第4章「現代のマネ解釈―森村泰昌と福田美蘭」
現代美術家2人によるマネ作品の解釈です。
そもそもマネ自身が美術史上過去の作品の再解釈という性格が強いので、現代において解釈されることも多いのではないでしょうか。
自身を作品内に入れ込む森村泰昌氏
マネの代表作は大体網羅していますね。
現役の作家さんなので、下に画像検索のリンクを置きます。
福田美蘭氏はもっとコンセプトに踏み込んだ作品群でした。
マネの「草上の昼食」画中の人物の一人の視点からの画面とか、マネの闘牛を題材とした作品が切断されて別の2点の作品として残っていることから、自身の作品から2点の絵画を切り出したものとか。
マネの作品に多くモデルとして登場するヴィクトリーヌ・ムーランを最近のファッション誌の写真とコラージュした作品も面白かったですね。
あと、マネをオマージュした作品(花瓶の花をレゴにした)をかつてマネがサロンに出したように、日本のサロンに近い日展に出品するという、その行為自体を芸術としています。
たしか、日展には入選していなかったようなので、展示期間終盤には練馬区立美術館に戻ってきているでしょう。
TOKYO ART BEATの福田美蘭インタビュー記事
2022年11月3日まで開催。
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本展示に合わせた出版
写実主義でも印象派でもないマネの作家としての特徴を知る本
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