2022年6月3日公開、6月7日鑑賞
「安彦キャラ」のガンダム見たい!21世紀のクオリティで見たい!
そんなあなた向け…なのが「ジ・オリジン」
「ジ・オリジン」のアニメ版はいわゆるファーストガンダムの前日譚、シャアとセイラがなぜああいうキャラになったか(ついでにザビ家の面々も)が、語られました。
そのオリジンがOKなら多分本作もOKでしょう。
しかし1979年のガンダムから40年以上経過して、現代の作り方でのアニメ作品です…そこに違和感を感じる方もいるのではないかと思います。
私の感じた違和感は主に声。
仕方ないのは分かっているんです。
当時から演じている声優さんは古谷徹さん(アムロ)古川登志夫(カイ)池田秀一(シャア)の3人しかいないから。
オリジンのアニメではまだホワイトベースに乗り組んでいないから、おなじみのキャラもまとまって登場しないのですが、本作はモロにホワイトベースが登場しますからレギュラーキャラが勢ぞろい。
…すると当時の声との違いが際立ってきてしまうのです(マ・クベさんは良かった)
それだけ昭和の声優さんは声質が個性的で、現代は売れ筋の声の方ばかりなのかもしれませんね。
ファースト世代のおっさんだからそう思うんだろ…と言われても仕方ないところではあります。
絵的には安彦キャラがその味を保ちつつ現代の作画で動く。
しかし、その「動き」の部分が、何と言いますか…「悪目立ち」?!
動きの演出は安彦良和的なもので、ある意味「昭和風味」を感じさせます。
もう少し具体的に申しますと…アムロと島の子供で反感も持っていたりすると「フンッ!」みたいなアクションをいちいち描いてしまう。
映画内容はシリアスだけど、どこかにドタバタ的なアクションを入れたくなるのは、天才アニメーターであった安彦さんの習性みたいなものかもしれませんね。ヤギのオーバーアクションとか。
思えば安彦監督のクラッシャージョウやゴーグにも同様の傾向があったような記憶もあります。
79年からのファーストガンダムではそういった要素は皆無ではありませんが(小さな防衛線でのチビ3人とか)概ねシリアスなストーリーに合わせた富野監督によるコントロールが効いていたのです。
そういう意味でファーストガンダムは同じような舞台ながら富野作品であり、本作は安彦作品ということで、そこには決定的な作家性の差異があります。
その点を許容できるか否かで本作の評価が分かれてくるのかな?
さて、お話自体はある意味伝説的な79年TV版の15話をよくもこれだけ作り替えたな( ゚д゚ )!という印象です。
ドアンのザクはなんであんなに稼働できるのか?
モビルスーツみたいなデカイ兵器は整備、補給などできなければとても動かせないだろ!…とTV版で感じる疑問に対して…島はジオンの基地になっていて整備施設がちゃんとあるとかね。
そしてTV版のオデッサ戦で登場する水爆ミサイルを絡めて島の外での戦争と関連付けるのはウマイ展開だと思いました。
ドアンがただ単に島に隠遁しているわけではない、そこにはある目的があったというわけです。
あと、ドアンがかつて所属していたサザンクロス隊。
これは他のキャラが79年からのお馴染みなのに対して、本作で新設定のためどうしても「とってつけた」感が出るのは仕方ないかもしれません。
目立つキャラとしては
エグバ・アトラー=ドアンとにかく憎し
セルマ・リーベンス=ドアン実は好き
ダナン・ラシカ=ドアンはあこがれ、そのドアンにやられて気持ちイイ~♪
…ダナン・ラシカはいろんな意味で「ヤヴァイやつ」ですね。
ネット上のレビューでは「なんでスレッガーが出てくるんだ!」という声も散見されましたが、これはコミック版のオリジンを下敷きにしていて、そこでは既に登場していたので全然OK。
ただ、本作ではあまりに活躍できず(というかヘボいw)かわいそうな気がします。
これはカイのガンキャノンにも言えるんですけどね…「キミ、もっと強かっただろ」って。
そして、TV版から話の核心(?)と思われる終盤の「戦いのにおいを消させてください」というアムロ。
このところは安彦さんも重要と考えたようで、本作でも同様のセリフでドアンのザクを海中投棄します。
絵的にはTV版では不必要に彼方まで吹っ飛んでいくザクが、本作ではちゃんとガンダムが重量物をグッと持ち上げ海中に落とすまともな描写になっていました。
…が、個人的には前から違和感があったんですね。
ザクが無くなったからって、それで誰も来なくなるの?
現代日本で「基地があるから攻撃対象になる」という意見みたいで私は逆にリアリティに欠けると感じます。
ましてやウクライナでの戦争の状況を見るとなおさらです。
エンドロールではドアンと子供たちは幸せに暮らしましたとさ…的な止め絵が出てきますが、ちょっと安彦さん…お花畑じゃありませんか?と思うわけです。
メカニック描写については、かつての手描きアニメの味に近づけて作画したという証言があります。
CGを使うと機械的な構造の正確さが逆にマイナス方向に作用しているように感じてしまうのですが(昭和のアニメを見過ぎているかも)…構造の正確さより演技としての動きのエモさを優先する方がアニメ原点の感動が味わえるってもんです。
本作はCGでオリジンのシリーズ以上に柔軟な手描き風味を表現しようとしていて、それは良かったと思います。
あとモビルスーツも他のメカニックもなんというか「ガンプラが動いている」感じがあります。
手描きアニメでは細かく描き込めなかったけれどCGでディティールを盛り込めるようになった時、ガンプラのそれをアニメが逆輸入した格好ですね。
ただし、ドアンのザクはオリジンシリーズに登場する他のザクに比べて鼻の下が伸びたような頭部になっていて、制作側がわざとTV版の作画崩壊と言われたバランスに近づけているようです。
そこまではしなくても良かったのでは?
とはいえ総じてなかなか楽しめる作品であったと思います。
安彦さんは(年齢的な理由で)映像でガンダムを作るのはこれで最後と言っているようですが、コミック版ジ・オリジンのアニメ化は実現しないのが正解であろうと思います。
先に書いた通り、ファーストガンダムは富野監督の作品であり、安彦アニメでリメイクするとその作家性の違いがいやでも際立ってしまうでしょう。
作品公式サイト
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ファーストガンダムの音楽関係
TV版総音楽集
劇場版総音楽集
ファーストガンダム主題歌・挿入歌集
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