なんつったって…ザ・グレイツですよ!
「美の巨匠たち」というある意味茫漠としたタイトルの展覧会です。
修復したら絵の中に絵が出てきちゃった!というフェルメールが展示されたドレスデン美術館展の記憶も新しい東京都美術館で、今度はスコットランド国立美術館から西洋絵画の歴史を概観するかのような内容が見られるというわけです。
私が見に行ったのは5月7日土曜日でしたが、直前でも日時指定チケットが取れましたし会場に到着した時にもさほど混雑した印象はありませんでした。
これはキービジュアルとして使われている作品がジョシュア・レノルズと…日本ですごく人気があるわけでもない画家というのも影響しているかも。
(フェルメールやゴッホ、印象派を目立たせればいいじゃない…みたいな風潮もどうかと思いますが)
さて、例によって東京都美術館の地下1階からスタート。
最初は美術館自体を紹介する絵画作品の展示。
スコットランドの首都、エディンバラは古い町並みが残るとても雰囲気のある都市だということがわかります。
スコットランド国立美術館の公式WEBサイトは↓
なおエディンバラには「スコティッシュ・ナショナルギャラリー」「スコティッシュ・ナショナルギャラリー・オブ・モダンアート」「スコティッシュ・ポートレートギャラリー」の3館があり、その総称として「スコットランド国立美術館」と日本語では呼んでいるとのこと。
展示本編に入るとまずはルネッサンスから
今回の展示は各時代ごとに油彩画などの完成作の他に素描が展示され、画家の制作過程も感じられるよう工夫されています。
アンドレア・デル・ヴェロッキオ(帰属)
「ラスキンの聖母(幼児キリストを礼拝する聖母)」1470年頃
19世紀の有名な美術評論家ラスキンが所蔵していたという一枚。
ギルランダイオ作とする見方もあるそうで、美術館の公式サイトもギルランダイオのままですね。
背景に几帳面な線遠近法の建物があり、聖母の表情は次の世代に当たるレオナルドの表現とよく似ています。
画像はありませんが、素描では…ラファエロやジョルジョ・ヴァザーリといった画家の作品がありました。
大画面の準備素描が驚くほど小さかったりして興味深いですね。
そして、ベネツィア派
パオロ・ヴェロネーゼ
「守護聖人聖アントニウスと跪く寄進者」1563年
筆致がおおらかなのがベネツィア派の特徴。
画面右上に手と羽根がありますね…天使の一部みたいです。
これは図録を見ると分かりますが、高さ5mの大型の祭壇画が分割されて売らた結果とのこと。
全体のうち左下の画面が本作。
分割直後は右の天使の手と羽根は塗りつぶされたのが修復時に見つかり…「ありゃ?!」となったらしいです。
そして…ルネッサンス後期というかマニエリスム期…スペインではこの方が活躍
エル・グレコ「祝福するキリスト(世界の救い主)」1600年頃
マニエリスム期というと現実離れしたプロポーションや重さを感じない表現などが見られますが、これはそういった一例でしょう。
シンプルな構図でズバリ、キリストの姿を描いています。
次のバロック期もなかなか厚みのある展示。
今回の展示のある意味目玉作品!
ディエゴ・ベラスケス「卵を料理する老婆」1618年
画集などでベラスケスの初期作として必ず掲載される作品。
今回キャプションを読んだら…わずか18~19歳の作とのことで、これは天才だわ( ゚д゚ )
固まりかけた卵の白身や陶器・金属の質感表現がパーフェクトです!
ライティングも適切で、のちに宮廷画家へと出世するのもうなずけます。
この頃、イギリスの肖像画の基礎を築いたのがヴァン・ダイクです。
アンソニー・ヴァン・ダイク
「アンブロージョ・スピノーラ侯爵(1569-1630)の肖像」1627年
モデルの姿を「盛る」…というか上手く「理想化」し、当時超売れっ子画家となったのがヴァン・ダイクです。
本作は元々、全身像だったのが何らかの理由で下半分が切断されたとのこと。
それでも流麗で的確な筆致がよくわかります。
あとバロック期で忘れてはならないのが、レンブラント。
レンブラント・ファン・レイン
「ベッドの中の女性」1647年
主題は旧約聖書からとられている(らしい)のですが、言われないとわからないくらい画面は女性の表現に絞られています。
個人的にはちょっとポテっとした手指がレンブラントらしいな…と思ました。
さて、全然知らなかったけどスゴイと思った画家…
アダム・エルスハイマー
「聖ステパノの石打ち」1603-1604年
小さめの銅板に油彩で描かれた作品ですが、精緻で鮮やかな画面に驚きました!
この方、遅筆であまり多くの作品は残せなかったらしいです。
バロックの次はロココ様式が流行った18世紀…貴族の子弟が外国を旅行して見聞を広めた「グランドツアーの時代」と題して結構なボリュームで紹介されていました。
まずはロココのヴァトー。
メトロポリタン展でも出品されていたので、同時期に日本でヴァトーがいくつも見られるのは珍しいでしょう。
ジャン=アントワーヌ・ヴァトー
「ツバメの巣泥棒」1712年頃
小さな画面に高密度で描きこまれた作品。
自然の中に男女を配した画面が典型的なロココ様式ですね。
そして…ロココの盛期ともいえるブーシェの大型の作品も
フランソワ・ブーシェ
"田園の情景"左から
「愛すべきパストラル」1762年
「田舎風の贈物」1761年
「眠る女庭師」1762年
三部作のように見えますが、同じ形式で別々に描かれた作品を集めたとのこと。屋外で男女がどうのこうのという主題は当時の舞台演劇の影響とのこと。
かならず犬がいるというのも面白いですね。
構成としては画面下部、舞台上では手前が最も暗く、明かりの当たる中景に人物を配して…上へと延びる樹木、その背景に空…となっている。
当時の風景画の構成(暗い前景~中景・光景に光で奥行きを表現)を踏襲している。
トマス・ゲインズバラ
「ノーマン・コートのセリーナ・シスルウェイトの肖像」1778年頃
等身大より大きいのではないか?と思うほど大きな画面。
薄い絵の具の層でサラっと描かれているように見えるあたりはロココ的なテクニックだと思います。
ゲインズバラと同時代に活躍し、英国美術アカデミー初代会長になったジョシュア・レノルズ
ジョシュア・レノルズ
「ウォルドグレイヴ家の貴婦人たち」1780-1781年
ゲインズバラよりカッチリした古典的な描法が持ち味です。ゲインズバラ、レノルズの作品からわかる、この時代の女性のファッションは…かなりフワっとした素材を使ったドレスで白が目立つ色使い。
あとはヘアスタイル…シルバー?グレー?の髪色に上に盛り上げた形!
18世紀はこうした極端なものが流行ったようです。
ゲインズバラに関しては「食うために」肖像画を多く描き、それはそれで高く評価されたわけですが…どうも本人は風景画の方が好きだったという話をどこかで読んだような気がします。
たいして売れないのに相当な数の風景画を描いたらしいです。
トマス・ゲインズバラ
「遠景に村の見える風景」1748-1750年
非常に横に長い画面では左に近景~右に遠景が配され強い奥行きが表現されています。
遠くの村には白い塔を持つ建物があり、そこにスポットのように光が当たっています。
低めの地平線はオランダ風景画を目にしたからでしょうか。
コンスタブルにも影響を与えたとものこと。
18世紀で詳しく知らなかった画家
ジャン=バティスト・グルーズ
「教本を開いた少年」1757年
18世紀は自然科学が発展し、啓蒙主義という考え方もあり多くの人々が学ぶ機会が増えていった時代です。この作品は教本の内容を覚えようと、手で隠しながら反芻している場面なのでしょう。
絵としての表現スタイルはフワフワしたロココ調ではなく、シャルダンのような堅実な写実です。
良く描けていますね。
19世紀は激動の時代ということで「開拓者たち」というタイトルのついたセクションになっています。
おなじみの印象派からの近代絵画の展開…を展示しつつも、スコットランドゆかりの「知らなかった」画家の作品が多く並んでいました。
フランシス・グラント
「アン・エミリー・ソフィア・グラント(”デイジー”・グラント)
ウィリアム・マーカム婦人(1836-1880)」1857年
画家の娘を描いた作品とのこと。
雪景色の白に衣装の黒と赤が色面として対比されているあたりが19世紀的です。
ジョン・マーティン「マクベス」1820年頃
シェイクスピアの戯曲がテーマの作品。
イギリスでは聖書や神話以外に、こうした物語をテーマとした絵画が多いような気がします。
実物はこの画像よりも赤が強く、非常に劇的な印象。
スコットランドの山でしょうか?荒野を渦に巻き込むかのような雲が広がり、稲妻も!
彼方の海岸から隊列を組んで移動してくる軍隊も劇的です。
ジョン・セル・コットマン
「サン・ジョルジュ=ド=ボッシェルヴィル修道院付属教会の参事会集会所」1831年
イギリス人が大好きな水彩画です。
画面の構成としては手前の建物のアーチから色鮮やかな遠景がのぞいているというもの。
ヘンリー・レイバーン
「アン・アースキン、エドモンストンのジョン・ウォーコップ婦人(1740-1811)」1800-1805年頃
長いタイトルだなぁ…と思ったら、画面下にその通り字で書いてありました( ゚д゚ )
レンブラント的なスポットライトが当たったかのような光の当て方です。
すっきりした色面でこの感じは19世紀的かも。
ウィリアム・ダイス…日本ではほとんど知られていないと思いますが…
おそらくラファエル前派の影響でしょう、自然を精緻に描き込んで色彩も明るい画面です。
おそらくスコットランドの自然に存在する原野に聖書の人物を配した作品が印象的でした。
ほぼ同じ大きさで二点展示されていました。
「荒野のダビデ」1860年頃
「悲しみの人」1860年頃
画家の娘を描いた作品とのこと。
雪景色の白に衣装の黒と赤が色面として対比されているあたりが19世紀的です。
ジョン・マーティン「マクベス」1820年頃
シェイクスピアの戯曲がテーマの作品。
イギリスでは聖書や神話以外に、こうした物語をテーマとした絵画が多いような気がします。
実物はこの画像よりも赤が強く、非常に劇的な印象。
スコットランドの山でしょうか?荒野を渦に巻き込むかのような雲が広がり、稲妻も!
彼方の海岸から隊列を組んで移動してくる軍隊も劇的です。
ジョン・セル・コットマン
「サン・ジョルジュ=ド=ボッシェルヴィル修道院付属教会の参事会集会所」1831年
イギリス人が大好きな水彩画です。
画面の構成としては手前の建物のアーチから色鮮やかな遠景がのぞいているというもの。
ヘンリー・レイバーン
「アン・アースキン、エドモンストンのジョン・ウォーコップ婦人(1740-1811)」1800-1805年頃
長いタイトルだなぁ…と思ったら、画面下にその通り字で書いてありました( ゚д゚ )
レンブラント的なスポットライトが当たったかのような光の当て方です。
すっきりした色面でこの感じは19世紀的かも。
ウィリアム・ダイス…日本ではほとんど知られていないと思いますが…
おそらくラファエル前派の影響でしょう、自然を精緻に描き込んで色彩も明るい画面です。
おそらくスコットランドの自然に存在する原野に聖書の人物を配した作品が印象的でした。
ほぼ同じ大きさで二点展示されていました。
「荒野のダビデ」1860年頃
「悲しみの人」1860年頃
非常に大きな画面ですが…どういった主題かさっぱり分からなかった作品、作者名も初耳。
エドウィン・ランドシーア
「荒野の地代集金日」1855-1868年
これもスコットランドの荒野でしょう。
手前には帳簿を見ている男性、周りでは望遠鏡を覗いたりしてある方向を注視する人々、さらに遠景からは赤い制服の軍隊が近づいてきます。
図録の記事によると18世紀のドナルド・マーチソンという人物の歴史的エピソードがテーマとのこと。
ここからは有名画家の作品を…
ジョセフ・マロード・ウィリアム・ターナー
「トンブリッジ、ソマー・ヒル」1811年
後半は光に融解するような表現になったターナーですが、本作は貴族の領地を記録するような注文作品でキャリア前半のため落ち着いた表現です。
夕方の空気感の表現がいい感じですね。
ジョン・コンスタブル「デダムの谷」1828年
ターナーと並んでイギリスの風景画を進化させたコンスタブル。
本作は典型的なコンスタブル作品。
前景~中景~遠景と奥行きのある構成。
キラキラ感のある白っぽいハイライト。
空気の動きを感じさせる雲の表現。
ジョン・エヴァレット・ミレイ
「古来比類なき甘美な瞳」1881年
19世紀において既に美少女系作品で好評を博したミレイ。
本作は子役の少女をモデルにした作品。
個人的にはミレイのこの路線はわざとらしさが強すぎるように思います。
フランスの印象派前後の流れもしっかり押さえています。
バルビゾン派と呼ばれるコロー、ドービニー
印象派直前のブーダン
ズバリ印象派のシスレーときて…
クロード・モネ
「エプト川沿いのポプラ並木」1891年
スクエアの画面に並木が地上と水面の反射と対称的に描かれています。
黒を排除したパレットで、影色に青系を使っていますね。
エドガー・ドガ
「踊り子たちの一団」1898年
視力悪化が進んできた頃の作品かと思います。
地塗りの赤茶とゲレイッシュな緑の対比が印象的。
新印象主義…
ジョルジュ・スーラ
「”アニエールの水浴”のための習作」1883年
点描で知られるスーラの短いストロークで描かれた早い時期の作品。
完成作品までいろいろな構図を試す人でした。
ナビ派の代表格、ヴュイヤール…
エドゥアール・ヴュイヤール
「仕事場の二人のお針子」1893年
平面化、装飾的表現を進めすぎて、何が描いてあるかすぐにわからくなった作品(笑)
抽象絵画への一つのきっかけなのでしょうか。
ポール・ゴーガン
「三人のタヒチ人」1899年
ゴーガンの有名作で画集でもよく掲載されます。
彼の作品の中でも比較的分かりやすい作品。
中央で背中を見せている男性の両側に女性がいますが…左側は果実をもって誘惑する存在(感覚面?)右側は結婚指輪をつけていて結婚の義務的なものを象徴する存在(理性面?)
ですが、男は左側を見ているという…(笑)
最後に巨大な作品が!!
フレデリック・エドウィン・チャーチ
「アメリカ側から見たナイアガラの滝」1867年
アメリカのナイアガラの滝をアメリカ人画家が描いた本作がなぜエピローグとして展示されるのか?
解説によれば、アメリカで財を成したスコットランド人により美術館に寄贈された作品だから…とのこと。
画面左側に展望台が描かれ、滝を見る人物がいますが…その対比でスケール感を感じるなかなかに見事な作品でした。
展示全体的には教科書的に美術史をなぞりながらも「スコットランド」的な画家・作品も盛り込もうという独自性を感じました。
スコットランドの風景からは、個人的にスコッチウイスキーの作られる土地ってこんなだろうという興味ももちました。
また、英国人の水彩画への愛着も感じます…見事な水彩作品も見られ面白かったです。
東京会場展示リスト(PDF)
物販では名画をアレンジしたビームスデザインのTシャツがありましたが、あれはどうかな?
それよりエル・グレコのキリストが前身にドンとプリントされたTシャツの方が面白いかも(買わなかったけど)
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