現在の日本で「完売画家」と言われる作家がいますが…その中のお一人、山本大貴さんの展示を見に行きました。
会場は山本さんの出身地千葉の県立美術館。
新潟県からは遠く感じますが、車で4時間ほどで到着。
さて、今回の展示ですが学生時代から最新作まで約40点が出品されていました。
美大時代の作品を見るとすでに達者な写実の技術を持っていたことがよく分かります。
↓卒業制作「阿毘跋致」(部分)
その後、クラシックな雰囲気を持った女性像、現代的な表現の女性像、SF的なガジェットを身に着けた女性像、バレエダンサーといった画題を展開してきたようです。
この方の画集は書店で見かけてはいたのですが…印刷物ではどうもピンとこない感じがありました。
まったくの勘ですが「これは実物を見ないと分からない!」と思い切って見に来たというわけです。
やはり実物でないと感じられない質感の発見があり、実際に見てみて良かったと思います。
会場入り口に近い場所にクラシックなスタイルの衣装が展示されていました。
作品のため、このような手の込んだ衣装をオーダーメイドで用意するとは…話には聞いていましたが、実物を眼にすると「本気度」を感じます。
展示衣装の一番左側のものを着用した作品
↓
「Aeolian Harp」(部分)
図案ではなく絵がプリントされた衣装がパーフェクトな技術で描写されています…がその手前に配された青いガラスの(?)花瓶の硬質な存在感がまた際立っています。
さて、印刷では絶対分からないのが画面表面の質感
「離岸の唄」(部分)
この画像はわざと展示室の照明が反射するように撮ったのですが…右上のカーテンの暗色部分が梨地になっているのが分かるでしょうか。
人物の肌などは滑らかな絵肌ですが、背景の暗部ではこのようなザラっとした表面感がみられました。
また画面中、手前側にあるもの(この場合植物の葉)がカメラでいえばフォーカス外してぼやかしたような表現になっています。
こういう見え方はカメラが発明されて以降に人類が発見したというべきものですね。
それにしてもぼかし具合があまりにきれいなのでエアーブラシでも使っているんじゃないか?と思ったのですが、実際はどうなんでしょうね?
(大学院の修了制作では明らかにエアーブラシ使っていますね)
「Sound Around-2021-」
雑誌、アートコレクターズの表紙になった作品。
表紙になった時点ではトリミングされているのですが、画面全部を見た時に人物の周囲に光学レンズ的なハレーション(?)があることに気づきました。
このぼかし具合がまたエアーブラシ的です。
印刷では分からない画面の質感をもう一つ
「TWO FACE(feat.内田すずめ)」
このように人物+壁みたいなシンプルな構成だと背景のマチエールがかなり立体的になっていることが分かります。
これは、モデリングペーストでも使っているんでしょうか?
滑らかな筆致で描写された人物とザラっとした背景でうまくコントラストが出来ています。
あと、顔料(?)のことについて
「NEUROMANTIC GIRL Type Ⅱ(feat.IKEUCHI Hiroto)」(部分)
SF的ガジェット+女性像というサブカル的なモチーフを真正面から描いた作品ですが…
ヘッドセットの耳にあたる部分、五角形のスピーカーみたいなパーツがメタリックブルーに光っていました。
ラメというかグリッターというかそんな系の顔料を使っていました(画像だと分かりませんが)
「Standing Figure(feat.IKEUCHI Hiroto)」(部分)
伝統的に絵画では避けられてきた(?)プラスチックの質感…それもここまで正面切って描写されると絵画としての価値観が生まれるんですねぇ。
昔スキーウエアの仕事でイヤというほど見てきたプラスチックの差し込みバックルもこうした絵画になると妙な感慨があるものです。
サブカル系、2.5次元モデルのあまつ様をモデルに日本画家の池永 康晟氏と競作した作品
「DIMENSIONAL GIRL(feat.あまつ様×BLUE EGG)」(部分)
アングルの貴婦人の肖像画を想起するフォトリアリズム的精緻な描写。
…ですが、背景の壁にはブルーのグリッターが混ぜ込まれて光っていました。
バレエダンサーのシリーズも見事
「the Lilac Fairy(from "Sleeping Beauty")」(部分)
私の大好きなドガも描いたバレエダンサーですが、モデルと真正面から向き合えなかったドガに対して山本大貴さんは正面から受け止めるかのような表現です。
ここでも壁のマチエールが効いていますね。
今回の展示の図録が1200円で販売していましたので買ってきました。
実物を見ての気づきを思い出すきっかけとしての図録ですね。
あらためて…絵画は実物を見るべきですね。
印刷などで複製される前提のイラストレーションではない絵画の存在価値を再認識するかのような展示でした。
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