20220311_005943381_iOS
ニューヨークにあるメトロポリタン美術館から西洋絵画500年の歴史を概観できるという展示です。
昨年末に大阪で開催され東京の国立新美術館に巡回してきました。

500年といいますが、具体的には初期ルネッサンスから19世紀後期印象派までを網羅しています。
取り上げた画家の顔ぶれはまさに「教科書的オールスター」…なのですが各画家の最盛期の作品というわけにはいかないようです(それを望むのは贅沢というものでしょう)

Angelico,_crocifissione,_1420-22_ca.
フラ・アンジェリコ「キリストの磔刑」1420-23年頃
いきなりめったに来日しないフラ・アンジェリコとは!
とはいえ、最も早く遠近法を取り入れた人なのですが…本作はその点がちょっと弱い。

Carlo_crivelli,_madponna_col_bambino,_1480_ca.
カルロ・クリビエッリ「聖母子」1480年頃
カルロ・クリビエッリはサイズは小さいものの、この人の特徴(変に筋張った指とか冷たく様式化された表情とか)が良く出ています。
また教会の建物を模した額縁も見事です。

The_Agony_in_the_Garden_MET_DP136373
ラファエロ・サンツィオ「ゲッセマネの祈り」1504年頃
これまためったに来日しないラファエロも。
ただしこれはまだ若い頃(20歳頃)の作品。
プレデッラの一部ということは大きな祭壇画の下側を飾る一連の絵の中の一枚と思われます。
主役の画面はまだ描かせてもらえなかったのでしょう。

Venus_and_Adonis_MET_DT5111
ティツィアーノ・ヴェッチェリオ「ヴィーナスとアドニス」1550年頃
ベネツィア派のティツィアーノもありますよ。
同じ構図で何枚も描かれた、人気構図の1枚です。
ヴィーナスの右脚と臀部の位置関係に違和感がありますが、平面の絵画空間ではこれもアリなのかな?と思います。


ルネッサンスもイタリアだけでなく北方の作品も
Gerard_David_-_The_rest_on_the_flight_into_Egypt
ヘラルド・ダーフィット「エジプトへの逃避途上の休息」1512-15年頃
フランドルらしい精緻な画面。
画面左奥の遠景が印象的でした。

北方ルネッサンス、ドイツのクラーナハも
Lucas_Cranach_d.Ä._-_Das_Urteil_des_Paris
ルーカス・クラーナハ(父)「パリスの審判」1528年頃
硬質な甲冑を着ているパリスとヌードの3人美女…この対比がクラーナハのスタイル?!
山田五郎さんもYoutubeで指摘していた「マッパプラスワン(真っ裸に一つアイテムをまとう)」のを実践しています。
遠景の霞む建物や山々も見事なのですが…個人的に気になったのは…木から中継の岩山に向かって伸びている縮れた枝です。
なんでしょうねぇ…この枝だけ葉がないし…陰毛みたいに見えなくもないし

なにげに「いいな」と思ったのが…
El_Greco
エル・グレコ「羊飼いの礼拝」1605-10年頃
画面中心からの超自然的光、それを表現する揺れる筆致…密度の高い構図。

バロック期のセクションに今回の目玉作品が!
まずはカラバッジョ
Caravaggio_-_I_Musici
カラバッジョ「音楽家たち」1597年
ややもすると男色志向すら感じる怪しげな画面ですがそれまでなかった写実的な表現が特徴。
初期フランドルよりももっと自然な写実です。
まだ明暗の対比が強いキアロスクーロは見られません。

おそらく今回ナンバーワンの作品
Georges_de_La_Tour_016
ジョルジュ・ド・ラ・トゥール「女占い師」1630年代?
どこで見たのか分からないけれど…明らかにカラバッジョの影響を受けているのがこの人。
詐欺被害に合いそうな若い男という画題も詳細な写実表現もカラバッジョからのものですが、この画面ではやや平面的というか装飾性に振ってます。
それにしても老人のしわが多い顔が得意な画家ではありますが、他の若い人物との対比で実に効果的。
あと衣装の装飾やアクセサリーのキラキラなど圧巻の出来ですね。

個人的に…本展示の一つのハイライトはベラスケス
Portrait_of_a_Man_MET_DP221248
ディエゴ・ベラスケス「男性の肖像」1635年頃
そもそも個人的に大好きな画家なのですが、本作は特に構成がシンプルで描写が顔面に集中しているところが実に近代的。
衣装の「抜け」具合と目鼻周りの適切な描写のギャップがイイですね。

ベラスケスと同時代人で交流もあったルーベンスも
The_Holy_Family_with_Saints_Francis_and_Anne
ペーテル・パウル・ルーベンス「聖家族と聖フランチェスコ、聖アンナ、幼い洗礼者聖ヨハネ」1630年代
量産画家でしたので工房で描かれたのでしょうが、比較的本人の筆も入っているのかな?と思いました。
個人的に注目したのは…聖フランチェスコの腕の下に見える遠い風景…人物と直後の樹木の密度と遠景の対比が空間の広がりを生んでいます。

時代はバロックでもカッチリした画面を作ったフランスのプッサンも
Saint_Pierre_et_saint_Jean_guérissant_le_boiteux
ニコラ・プッサン「足の不自由な男を癒す聖ペテロと聖ヨハネ」1655年
画面中央の人物ポーズは明らかにルネッサンスのラファエロやミケランジェロからの引用でしょう。
そもそも階段に人物を配置する構成はラファエロのアテネの学堂がルーツでしょうね。
衣装の赤・青・黄色は宗教画では必須の色使い。

そして…近年の展覧会企画では「フェルメールあるなら絶対入れとけ!」とされているとしか思えない
Allegory_of_the_Catholic_Faith
ヨハネス・フェルメール「信仰の寓意」1670-72年頃
「室内」「画中画」「手前のカーテン」「ラピスラズリの青」とフェルメール要素は満載です。
…が光の当たっている女性はややツルっとした表現。
それに対して手前のカーテンは点描的にイキイキ描かれていて、こっちの方が描いていて楽しかったのではないか?なんて感じたのでした。

フェルメールと同時代に同じオランダで活躍した巨匠レンブラント
Rembrandt_Harmensz._van_Rijn_059
レンブラント・ファン・レイン「フローラ」1654年頃
やはりこの方の作品は存在感が違いますね。
レンブラントにしては影が強くないのですが、衣装の繊細なヒダ表現などは「さすが!」

バロック期にオランダで成立したという静物画も
chapter02_img06
ピーテル・クラース「髑髏と羽根ペンのある静物」1628年
髑髏は「ヴァニタス」=「虚栄」と訳されますが、現世の栄光も死すれば滅びる…日本的には「諸行無常」みたいな感覚の表現です。
バロック期の一つの特徴である質感の描き分けが最大限に現れた例です。
骨、ガラス、羽、金属、紙…と意図的に様々な質感を組み合わせています。


バロックの後はロココ期
ロココへの扉を開いたのがヴァトー
Antoine_Watteau_063
アントワーヌ・ヴァトー「メズタン」1718-20年頃
日本にヴァトーが来るというのは実にレアですね。
溶剤多めで「おつゆ描き」かな?という画面ですが、感心するのは楽器を弾く手指の表現です。
ロココというとフワっとしたイメージを持つかもしれませんが、描写の巧みさも感じられますね。

華やかさもありながら、実は巧者のフラゴナール
FRAGONARDsisters
ジャン・オノレ・フラゴナール「二人の姉妹」1769-70年頃
流れるような筆致が集まると見事に衣装のヒダになって見えるところがスゴイ( ゚д゚ )

近年話題になる女流画家の作例として
chapter02_img09
マリー・ドニーズ・ヴィレール「マリー・ジョゼフィーヌ・シャルロット・デュ・ヴァル・ドーニュ(1868年没)」1801年
ヴァル・ドーニュ家にダヴィッド作として伝わっていたそうです。
それが、よ~く調べてみたらヴィレールが作者じゃね?ということになったとのこと。
窓辺で絵を描く女性を逆光で表現した意外とありそうでない画面。
非常に繊細に明暗が描かれていますが…個人的にはそれほど好みではないですね。


いよいよ近代絵画のセクションに入っていきます。
まずは印象派をだいぶ先取りしたターナー。
Turner,_J._M._W._-_The_Grand_Canal_-_Venice
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー「ヴェネツィア、サンタ・マリア・デッラ・サルーテ聖堂の前廊から望む」1835年頃
完全に光に溶けてしまうまえのターナーというところでしょうか。
やはり水面の多いヴェネツィアは反射など光の効果を追求するのにもってこいの街ですね。

制作時期は19世紀頭ですが近代絵画の流れで展示されていたのがゴヤ
DP123853
フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテス「ホセ・コスタ・イ・ボネルス」1810年頃
子供の肖像画ですが…メトロポリタン美術館のWEBサイトによると、木馬・ドラム・銃剣付きライフル…という背景のモチーフがスペイン独立戦争を想起させる構成だとのこと。
…なのでしょうが、絵としては衣装の輝くような白いハイライトが素晴らしいですね。

たしか教科書で見たことあるドーミエの作品
Honoré_Daumier,_The_Third-Class_Carriage
オノレ・ドーミエ「三等客車」1862-64年
生前は風刺画家として活躍していたドーミエがひそかに(?)描いていた油彩画のひとつ。
線描とわりとザックリした彩色が組み合わさって独特の力強さがあります。
思ったより大きい画面でした。


さて印象派です。
モネは初期においては結構人物を描いていたわけですが、これはその一例。
C_Monet_-_Jean_Monet_on_his_Hobby_Horse
クロード・モネ「木馬に乗るジャン・モネ」1872年
自分の息子を描いた作品。
マネが手本になっているのでしょう。
平面的な色面で構成された画面です。
三輪車型の木馬にのったジャンは左側に寄せて、右側には赤い花が配置されています。

上のモネの作品と同年に描かれたシスレーの作品
The_Bridge_at_Villeneuve-la-Garenne
アルフレッド・シスレー「ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌの橋」1872年
斜張橋っぽい近代的な橋が描かれた風景。
散らばる雲と川面の波が呼応して、爽やかな風を感じますね。

ルノワールの作品は2点ありました
制作年は1883年と1889年、調べると比較的カッチリ描いていた古典主義回帰の時期にあたります。
この6年間に起こった技法の変化が分かります。
Renoir_-_Femme_assise_au_bord_de_la_mer
ピエール=オーギュスト・ルノワール「海辺にて」1883年
顔はかなり細かく描かれていますが、背景はまだ印象派的な筆致が残っていますね。
衣装の青も初期に多く使われた色です。

Young_girl_with_dasies
ピエール=オーギュスト・ルノワール「ヒナギクを持つ少女」1889年
目立つのはモデルの身体の量感が輝くような色白の肌色で表現されているところ。
1890年代以降に見られる白絵の具で下地を作って油で薄く溶いた絵具を重ねていく技法が始まっています。
背景も薄い絵の具を重ねています。

私個人の敬愛するドガ先生の作品も
chapter03_img04
エドガー・ドガ「踊り子たち、ピンクと緑」1890年
色彩豊かになっていったキャリア後半の作品です。
線描と色彩が共存していますね。
背景は舞台の書割なのでしょう、平面的でやや抽象的に見えます。

ポスト印象派としてはゴッホ、ゴーギャン、セザンヌがありました。
Paul_Cézanne_066
ポール・セザンヌ「カルダンヌ」1885-86年
セザンヌは別に静物画もありましたが、個人的に「らしいなぁ」と思ったのがこれ。
油彩なのに水彩画のような塗り残しの多い画面。
重なる建物はキュビズムを予告しているかのようですね。


展示会場の出口には物販。
さすが、ニューヨークにあるメトロポリタン美術館。
商売っ気たっぷりです。
20220311_031934202_iOS
METキャップ。

20220311_031947876_iOS
名画がソックスに(゚Д゚)

20220311_032006049_iOS
Tシャツとか当然として、なんとスケボーのデッキまで!

振り返ってみると、よくぞこれだけの顔ぶれを揃えたな!という展示でした。
西洋絵画史からまんべんなくピックアップされていますので、西洋絵画に興味を持ち始めた方に特におすすめです。
2022年5月30日まで開催。

***************************************