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岡本太郎著 青春文庫
1993年の文庫の新装版で2017年初版。

新装版にさらに新しいカバーをつけて令和のイマドキ感を演出しているのでしょうか。
一枚カバーをめくると岡本太郎の顔が出てきます(amazonなどではこの表紙画像ですね)
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本書の続編的なもので「自分の運命に盾を突け」「自分の中に孤独を抱け」といった本もあり三連作みたいに見えますが、そちらは雑誌などに掲載された文章を集めて再編集したようで、本書だけはこれ用に執筆されたようです。
それにしては似たような内容が何回か出てくるのですが…そこはまぁ岡本太郎先生ということで(・∀・)

内容は岡本太郎の考える人間の本当の生き方が語られています。
書き出しから…「人生は積み重ね」ではなく「積みへらす」べきで、「ほんとうに生きるには、瞬間瞬間に新しく生まれかわって運命をひらく」ためには「心身とも無一文、無条件でなければならない。捨てれば捨てるほど、いのちは分厚く、純粋にふくらんでくる。」
…先に結論めいたことが語られています。

そこに邪魔者として出てくるのが世間体を気にして無難な選択ばかりしてしまうこと。
生きている瞬間瞬間に選択する機会が巡ってくるわけですが、岡本太郎はどちらかを選ぶなら「危険な道を選ぶ」と言い切ります。
言い換えると既知の道より未知の道を選ぶ、そうすれば新しい道が開けるはずだ…ということです。

ただ、多くの人はそれができない。
その原因は世間体を気にして社会性を身に着けさせる、つまり型にはめる日本的な教育制度にも問題があると鋭い指摘。
これは18歳でフランスに渡り前衛芸術運動のただなかに身を置いた経験から日本の教育制度、社会制度をを客観視できたから言えたことなのでしょう。
そこから日本に帰国してからはおそらく既存の権威、同調圧力との戦いが続いたのですが、1970年の大阪万博での太陽の塔で最終的に勝利を収めたと言ってよいでしょう。

その太陽の塔と前後の創作活動については2021年冬に新潟市の万代島美術館で展示がありました。


世界的に見ても極めて独自性が高い万博での表現を実現した岡本太郎の生き方をものすごく要約すると…
「今という瞬間を妥協せず本気で生きる」ということではないかなと思います。
すなわち、過去・現在・未来という軸でとらえると
・過去からの惰性や世間体にとらわれない
・今という瞬間、本当に自分でこうと思ったら妥協しない
・未来に対して安易な安定を求めない
そして、生きるということはその瞬間瞬間の積み重ねなのだと思わされるのです。

そして終盤に「芸術は爆発だ!」のその「爆発」の真のイメージが明かされます。
それは爆弾がドカンと破裂して周囲を破壊するようなものではなく、「全身全霊が宇宙に向かって無条件にパーッとひらくこと」人生は瞬間瞬間にこのように爆発し続けるべきとさえ言っているのです。

この時「無償、無目的」と言っているのもポイントです。
特に「無目的」
現代においては何でもかんでも「目的はなにか、それは達成されたか否か」で評価したがると私は感じていますが、そればかりでは個人個人の存在が死んでしまうでしょう。
きわめて今日的な問題意識です。

ここ何年も論理的な内容のビジネス書が多く出版されてきましたが、最近はそれだけではダメで教養として美術を知らなければならないというような本も見かけます。
また、スティーブ・ジョブズのイノベーションは論理的な思考だけでは出てこない、アート的な発想も重要とも言われます。
世界的にも論理のみでは行き詰るので、ブレイクスルーとしてアートの発想は重要と言い始めていますが、岡本太郎の生き方はそれを相当早くに先取りしていたようにも感じます。


まぁ…本書で書かれていることを誰もが現実できるかは???ですが、世間体など周囲を気にし過ぎて病んでしまいそうな人には良い気づきになると思います。
わりとオススメ。

2019年に「マコなり社長」がYoutubeでおすすめして話題になったようですね

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今回ご紹介した文庫↓

あいみょんと岡本太郎

岡本太郎の書籍