新潟市美術館で2021年4月10日~6月6日の期間開催。
長野県上田市に「無言館」という美術館があります。
戦没画学生の作品を収集した施設です。
この施設についてはTV番組か、YouTubeか忘れましたが、一度見たような覚えがあります。
この展示には無言館に所蔵されている作品から100点以上が出展されています。
日中戦争から太平洋戦争で戦死、戦病死した画学生や美術学校出身の若者の作品が並びます。
私は絵画作品を見るときは「どうやって描いたか?」という意識になっていることがほとんどですが、さすがに今回はちょっと違う感覚になりました。
展示のプレスリリース(PDF)
展示構成は「望郷」「家族」「自我」「恋」「夢」の5つのテーマごとになっていて、最後に新潟市美術館所蔵で戦没した画家の作品が並びます。
学生であったが、繰り上げ卒業になりすぐに学徒出陣した人の作品は画学生時代のものしか残っていません。
卒業して作家として活動始めたり、美術教師になったりしたが招集されたという人たちはまだ作品を制作する時間もあったのでしょうが、出征直前の作品にはどこか緊張感があるような気がしました。
美術学校在学中から文展に入選して、早くから評価のあった市瀬文夫という画家はこのように堂々たる作品を残しています。
かなりの大画面
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「温室の前」市瀬文夫
展示を見始めて…最初の「望郷」のセクションは古い日本の風景が並んでいます。
そこで感じたのは油彩画が「全体に褐色がかっているなぁ」ということ。
最初は特に画学生時代の作品が多かったようなので、美術学校での指導が茶褐色下塗りを基本にしていたのか?あるいは時代性でそうした暗めの色使いが主流であったのか?どうなのか分かりませんが、どこか薄暗い印象を受けました。
まだ、日本画の方が明るさがありましたね。
戦争直前のシュルリアリズム運動に参加した画家の作品もあり、当時の多様な流れも知ることが出来ます。
それにしても色彩は重いです(実際見ると画像より暗め)
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「人々」渡辺武
「家族」「自我」「恋」のセクションは人物像がメインとなり人間に対する思い入れが感じられ、特に家族、恋人などはなおさら。
裸婦像に至っては、戦場とは真逆の存在なわけで…その後の運命を想うと悲壮感を感じざるを得ません。
作品の状態としては、絵の具の剥落など痛みがあっても無理にリタッチせず保管状況の過酷さを残しているように思いました。
しかし、それが逆に画面に残された筆づかいを際立たせているのではないでしょうか。
生きた人間が残した痕跡が画面に確かに存在しているのです。
戦没したという事実を知ったから特にそう感じるのかもしれませんが、音楽関係者が「爪痕を残す」という言い方をしているのを連想します。
最も絵の具剝落が多かった作品
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「編み物をする婦人」興梠武
私個人も趣味の範囲で絵を描いたりしますが、自分が死んで存在が消えた時に描いた絵を見た人々が何か痕跡を感じるものでしょうか。
おそらく写真、画像では感じられない何かがあると思いたいものです。
それでも死後に燃やされたりしたら残りませんがね。
残るか否かは、絵を引き取った人の感受性によるのでしょう。
ただの物質として見るか、そこに故人の生きた痕跡を感じるか…
美術館に収蔵されているのは長い時の流れの中で評価という壁を乗り越えていった作品ですが、この「無言館」の作品は戦没者の生きた痕跡という別の価値観で存在していると思います。
私は戦争に関しては何でもかんでも反対というより「負けるような戦争はしてはならない」という考えですが、こうした展示を見ると、戦争とは文化面では明らかに破壊行為でしかないことがわかります。
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無言館所蔵作品から100点を選んだ画集
無言館 館長の窪島 誠一郎氏による書籍
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