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新潮新書
古賀 太 :著
2020年5月15日刊
※Kindle版で読みました

私個人的に美術展は大好物で時間の許す限りいろいろ見てきたわけですが…有名作の展示でしばしば直面する極度の混雑には辟易してきたわけです。

これは日本特有の「企画展」で大規模集客を狙う美術業界の「歪んだ現実」があるというのは、こうした展覧会に通えばだれでも気づくことだと思います。

著者は朝日新聞社で実際に企画展を手掛けてきた人物で、その舞台裏が具体的に語られています。

結論としては美術館は常設展の充実を目指しそれで集客、美術館同士のネットワークで時に作品を貸し借りして広く作品を紹介すべきと言っています。

ですが…西洋美術に関しては、王侯貴族や大富豪が桁違いの費用をかけて収集してきた歴史的な蓄積のある欧米の美術館に日本が太刀打ちできるわけもないわけで、常設展で勝負するのは基本的に厳しいわけです。
特に地方はその傾向が顕著です。

2019年の国立西洋美術館「松方コレクション展」を見た時、一時期日本にも桁違いの富豪がいて、世界的にも優れたコレクションが出来かけていたことを知りました。

残念ながらそれも世界恐慌と第二次世界大戦で散逸してしまいました。
やはり敗戦国であるということは、こうした負の影響が残ってしまう…とか、これは脱線しました。


本書で描かれている美術業界の実態は、マスコミが中心となった主催者が企画から作品の手配、大規模な宣伝までを手掛け、マスコミ本業の収益が減った分を補填するために利益を求めているというものです。

その一連の活動の中で、美術館の学芸員の関与があまりに少なく人材が育たないという問題点が指摘されています。

この背景には美術館のような文化施設に予算が割かれないので、新聞社等の営利企業が多額の資金を投じた企画展に美術館が依存せざるを得ない状況もあります。

極論でいえば、文化の普及が使命であろう美術館が企業の金儲けのために場所貸しを行っているということになるでしょうか。
しかも日本だけが世界的に珍しい高額な貸出料を払っている(海外美術館はそれをあてにしているという現実もあり根が深い)


タイトルに「不都合な真実」とありますが、何か激しく告発してやろうというようなことではなく、日本国内における美術業界の実態…くらいの内容です。

2020年現在、新型コロナウイルスの影響により美術館も入場人数を制限するといった「ニュー・ノーマル」での運営を強いられ、企画展で多額の利益は難しい状況です。
今はこういった現状を見直す機会にはなっているとは思います。

いずれにせよ深刻にならずに比較的気楽に読んでいい一冊でしょう。

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