日本の美術館にはルネサンス以降の作品はあるが、中世のものがほとんどない。
…と内藤裕史氏が収集した写本リーフ(ページごとに分割されたもの)のコレクションを国立西洋美術館に寄贈されました。
そのコレクションを公開する展示です。
昨年、13~14世紀ゴシックを中心とした展示がありました.
今回2020年7月に見られたのはそのパート2、15~16世紀にかけてルネサンスの動きの中で変化していく写本が見られました。
<15世紀>
1400~1425年頃 詩篇集より:アカンサス葉の装飾を伴うイニシアルC(手彩色)
まだ14世紀ゴシック的なのでしょうか、文字と枠に繊細な装飾が加えられています。
鮮やかなブルーと画像では分かりにくいですが要所のゴールドが効いています。
枠を装飾する植物はやや立体的な表現になっていて、ものの見方が変わってきているのでしょうか。
1405~1410年頃 時祷書より:受胎告知(手彩色)
外側の植物モチーフの装飾模様は様式化が強くゴシック的ですが、中央のマリアと受胎を告げる大天使ガブリエルの身体の表現がルネサンス的なより自然なものになってきていますね。
1485年頃 時祷書より:キリスト降誕(手彩色)
明らかにルネサンス絵画の影響により、描かれた場面の空間が表現されています。
手前の天使から、中央のキリスト(空間を強調するよう斜めの線が使われている)、建物奥の窓から見える向こうの街並み…と重層的な構造になっています。
1470~1490年頃 時祷書より:2つの人物の横顔を伴うカデル・イニシアルA(手彩色)
ルネサンス的な空間意識が出てきたかと思えば、このようにペンによる線のお遊び的な表現も。
左下の赤い装飾文字についでに書き足したかのように横顔がサラっと描かれています。
こういうのが流行ったのでしょうか。
1460年頃 ブルネット・ラティーニ「宝典」より:第二巻冒頭「枢要徳の擬人像」(手彩色)
この作品では床の描写に線遠近法が見られます。
もうタブローや壁画にはどんどん遠近法が入ってきた時代ですね。
1474年 「ズヴォレ聖書」より:3つのイニシアルDの内部に「ダヴィデ伝」の諸場面(手彩色)
ダヴィデだからなのか、Dの文字の中に3つの場面が描かれています。
それぞれ小さいながらも近景・遠景の構図や斜めに置かれたモチーフなど空間意識が現れています。
<16世紀>
1500~1530年頃 とりなしの祈祷の画家 祈祷書より:離婚について議論するキリスト(手彩色)
画面の枠が布地というのも面白いですが、中央画面では遠くの山までの景色が空気遠近法で美しく描かれています。
装飾の植物も線より肉付けされた面での表現になっています。
1504年 ミサ典書より:聖母戴冠(手彩色)
この作品も装飾の植物も含めて全体に絵画的です。
全ての要素が肉付けされた存在感を持っていて、ルネサンス真っただ中だと感じます。
1503年出版 時祷書より:聖母のエリザベツ訪問
黙示録のバラ窓の画家の原画に基づく、ジレ・ルマークのためにティールマン・ケルヴェールが印刷(金属凸版に手彩色)
ここから印刷術が現れます。
この作品は金属凸版とのことで版画みたいなものでしょうが、複製という概念が生じたというのは重要な出来事でしょう。
ただし、まだ一部に手彩色が加えられています。
黙示録のバラ窓の画家の原画に基づく、ジレ・ルマークのためにティールマン・ケルヴェールが印刷(金属凸版に手彩色)
ここから印刷術が現れます。
この作品は金属凸版とのことで版画みたいなものでしょうが、複製という概念が生じたというのは重要な出来事でしょう。
ただし、まだ一部に手彩色が加えられています。
1508年頃出版 時祷書より:羊飼いへのお告げ
ジャン・ビショルの原画に基づく、ギョーム・ユスタスのためにフィリップ・ビグーシェが印刷
(金属凸版に手彩色)
ジャン・ビショルの原画に基づく、ギョーム・ユスタスのためにフィリップ・ビグーシェが印刷
(金属凸版に手彩色)
これも金属凸版の印刷に手彩色とありますが、画面全体に色がのっていてもうフルカラーですね。
16世紀前半 「花の祈祷書」ミュンヘン、バイエルン州立図書館Clm236写本に基づくファクシミリ版
1500年代前半の写本の複製品です。
全体に絵画的になって非常にカラフルですね。
今回の展示は16世紀前半までです。
展示の中では触れていませんが、調べてみると15世紀中ごろ1450年頃にグーテンベルクが活版印刷を発明し、宗教改革の発端となった「95か条の論題」という文書が印刷されて瞬く間に広まったのが1517年。
人類の歴史上長らく書物と言えば手で書き写す時代が続いたわけですが、16世紀以降は大量に書物を印刷できるようになったわけで、写本はその辺で役割を終えたのではないでしょうか。
興味深い展示でした。
※撮影可
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