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2020年の春は新型コロナウイルスの感染拡大させてはならない!とあらゆるエンタメが制限を受けた季節となりました。

映画の世界も「自粛」が続き、資本力の弱いミニシアターは軒並み厳しい状況に置かれていたようです。
ですが、6月に入り様々な分野で経済活動が再開される流れの中で映画の上映も再開されてきました。

100年以上前に建てられた上越市の高田世界館も上映を再開したと聞いて内容を調べたら、以前から見たかった「ゴッホ最期の手紙」をやるっていうじゃないですか!

高田の古い町並みに特徴的な雁木にかかる看板↓
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当日の上映作品一覧↓
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建物外観↓
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館内の様子↓
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さて、この作品…超有名画家フィンセント・ファン・ゴッホの物語をゴッホの絵画のタッチで描いた油彩画でアニメーションにするという、途方もない発想で作られたものです。

どんな映像になったかは予告編を見ていただければわかるでしょう。


先に技術的な話を。

この映像のために描かれた油彩画は…公式サイトによると62,450枚とあります。
作画に参加した画家はのべ125人という記載があり、単純計算で一人当たり平均500枚作画したことになります!
一体、画家何年分の作品数なんだよヽ(`Д´)ノ!…信じられん!

そもそもは油彩で描く前に、ちゃんとキャスティングした役者を使って一度ライブアクションで撮影します。
その映像を元にゴッホのタッチで一枚ずつ描き起こしていったとのこと。
(演技は役者が表現し画家は各コマの作画に専念するシステム、最後はCGで整える)

そして多くのカットでキービジュアルは美術館に展示されているゴッホの代表作になっています。
つまり、有名な”あの作品”が動き出すとストーリーが始まるという仕掛けになっているのです。

当然、登場人物もほぼ全員ゴッホの作品に描かれた面々ですし、ライブアクションを演じる役者も原画の雰囲気に近い人が選ばれています。

ゴッホの作品は空間を埋め尽くすようなタッチが特徴ですが、映画ではそれがウネウネと動くので空気が動いているような印象を受けます。
慣れないと、動く画面の印象が強くてストーリーが入ってこないかもしれません。
それほどインパクトのある「今まで見たことのない映像」なのです。
個人的には自分も油彩の経験者として筆致の手間感覚がリアルに想像できるので、最後まで「これ大変だよなぁ…」と思わざるを得ませんでした(´Д`)

結果として本作を見終わったとき、ゴッホの作品を何点も鑑賞したかのような錯覚(?)に陥ります。
画面を見ているだけでこれだけリッチな印象を感じる映画も他にないでしょう。

日本の作品でこれに匹敵するのは、おそらく高畑勲が監督した「かぐや姫の物語」しかないでしょう。
絵そのものを追求する高畑監督の見識の高さを再認識。


でもって…ストーリー部分。

主人公はアルマン・ルーラン…ゴッホ関係者には珍しいイケメン!
演じるのはダグラス・ブース
VincentVanGoghArmandRoulin1888
ゴッホが何度も肖像を描いたアルルの郵便配達人ジョセフ・ルーランの息子で、父からゴッホの最後の手紙を「届けるべき人物」に渡すよういわれ…それがストーリーを紡ぎ出す。

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ジョセフ・ルーラン(演:クリス・オダウド)
大量の「ゴッホの手紙」を配達していた郵便配達人。
ゴッホをよく知る人物で息子アルマンを導くような立場。

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アドリア―ヌ・ラヴ―(演:エレノア・トムリンソン)
ゴッホが滞在していた宿屋の娘。
アルマンに親切に接する。

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マルグリット・ガシェ(演:シアーシャ・ローナン)
ゴッホの主治医ガシェの娘。
アルマンに対して屈折したような反応をするが…

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ルイーズ・シュバリエ(演:ヘレン・マックロリー)
ガシェ家の家政婦。
ゴッホを「邪悪な人」と言う。

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ポール・ガシェ(演:ジェローム・フリン)
精神科医でゴッホの最後の主治医。
印象派周辺の芸術家と交流がある。
自身も美術愛好家であることが、ゴッホとの軋轢を生む。
ストーリー上、決定的なセリフあり( ゚д゚ )

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タンギー爺さん(演:ジョン・セッションズ)
画材商、印象派の画家に画材を販売していて、浮世絵も紹介(?)
前半でフィンセントの弟、テオに手紙を届けに来たアルマンにテオは亡くなったことを知らせる。

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フィンセント・ファン・ゴッホ(演:ロベルト・グラチーク)
グラチークはポーランド人だが確かにゴッホに似ています。

他にも登場人物は登場しますが…このくらいで
これ以上は映画作品の公式サイトをご覧ください。

劇中、時間軸はゴッホの死後1年後。
主人公アルマン・ルーランは「耳切り事件」のあったアルルに住んでいます。
アルルでは、ゴッホについて頭のおかしい絵描きという評判がもっぱら。
アルマンは父ジョセフから配達されなかったゴッホの手紙を弟であるテオに渡すべく、まずパリに行きます。

しかし、テオもすでに亡くなっていることをタンギー爺さんから聞かされ、ゴッホ最期の地オーベル・シュル・オワーズに住むガシェ医師を訪ねます。

ガシェ宅に着いたもののあいにく不在で、医師が帰ってくるまでゴッホの死の真相について話を聞いて回りますが…人により矛盾することを話されます。

ゴッホについて
「感じの悪い」「感じの良い」
「邪悪な」「心優しい」
「異常」「正常」

さらには「自殺」か「他殺」かといった話まで出てきます。
中盤以降ミステリーっぽい展開です。

最終的に「~ではなかったか」くらいで終わるのですが、人間やその関わった出来事というのは多面性があり簡単に一方的な断定はできない…ということを感じました。

現在、世界中で相手についての一方的な決めつけから、いがみ合うような出来事がたくさん起こっています。
それを主導しているのは、国家や政党であったりマスコミであったりするように感じます。
そして、それに対抗しようとする人々のSNSでの発言がまた炎上したりして。

自分にとってはそんな世界の状況に「そんなに単純ではないんだよ」というメッセージを受け取ったのでした。

そういえば、主人公のアルマンは最初、酒飲んでケンカするやさぐれた青年でしたが、終盤はゴッホの名誉を回復するかのように行動していました。
ちゃんと成長していたのです。

クレジットの文字も油彩の手描き風だったり、俳優の紹介クレジット画面が画集か展覧会図録みたいだったり、細かなところも絵画愛にあふれています。

最期に…絵画の集合体である画面に集中するため、字幕ではなくて吹き替え版で見たことは大正解でした。
思わずブルーレイを即買いしてしまいました(笑)

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84分もの特典映像でメイキング等もバッチリ楽しめるブルーレイ


ベネディクト・カンバーバッチがゴッホを演じたBBCのドラマ
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中国でゴッホの複製画を描いてきた男がゴッホ美術館で原画を見たいと願い…
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ゴッホの筆致を原寸大で見る画集

絵そのものを追求した高畑監督の遺作