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新型コロナウイルス感染拡大防止のためとして…ほとんど「密」の状況にはならなそうな地方美術館も「自粛」していた2020年の春でしたが、5月になって明らかにコロナも下火になってくると展観を再開する動きが出てきました。

今回は新潟市美術館です。
新潟出身の現役作家の展示を見に行きました。
「長沢明展 オワリノナイフーケイ」
新潟市美術館のよるプレスリリース
ほぼ同じ内容の展示が横須賀美術館で2月からあったようですね。

長沢明さんは新潟市生まれ、東京藝術大学大学院を修了し現在は東北芸術工科大学の教授を務める作家です。
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最近増えてきた撮影可能な展示です。

展示の前半は近作ですが…特徴は

・とにかく画面がデカい
・絵肌が独特
・モチーフは動物系で種類は大体決まっている

会場で最初に展示されている作品↓
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「トララララ・・・」2008年

緑青っぽいブルーが印象的です。
サイズこそ大画面という規模ではありませんが、「トラ」のモチーフです。
そういえば「トラ」といってもどの作品も縞模様は全く描かれていませんね。

大画面が集まる最初のセクションから…↓
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「鳥に舟」1999年

「トラ」と並んでたくさん登場するのが「鳥」
赤茶とアイボリーが印象的ですが、日本画の岩絵の具に加え「土」が使われザラっとした絵肌になっています。
一部に金箔も使われ、よ~く見ると光る箇所があります。

長沢明さんは基本、日本画の人なので屏風形式の作品もありますが…とにかくデカい一枚↓
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「Mother」2015年
パネルに寒冷砂、岩絵具、土、石膏、金箔、ニス、真鍮線、木片

鮮やかな青の動物はおそらく「トラ」
そこに絵馬のような木札が大量に金属線でぶら下がっています。
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木の札に大きさを合わせた白い矩形は…なんというか…ちょっと前の映画でデジタル画像がモザイク状に荒れた表現を連想しました。

今回の展示のメインビジュアルになった作品↓
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「マウンテンⅡ」2007年
パネルに寒冷砂、岩絵具、土、石膏

とにかくデカい!美術館の天井ギリギリの高さ!
タイトルは「マウンテン」ですが、モチーフは多分「トラ」
ザラっとした白っぽい部分は石膏を塗って表現されているようです。

これも青い「トラ」↓
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「アオキトラ」2007年
パネルに寒冷砂、岩絵具、土、石膏

この作品を見たとき…脳裏に浮かんだキャラ(´∀`)
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シュールな内容で一部で話題になった「ポピーザぱフォーマー」に登場するケダモノ


おっと…脱線しました(;´Д`)

もう一つ「トラ」系の巨大作品↓
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「MotherⅢ」2017年
パネルに寒冷砂、岩絵具、土、石膏、墨

ユーモラスというか不気味というかこれも「トラ」のようです。
首から下に模様のような描き込みがありますが、よく見ると1から6000以上(?)の数字が上から並んでいます。
その(意味があるのかよくわからない)労力も含めての作品なのかなと思いました。

巨大画面が続きましたが、ここで全く異なるコンセプトの作品↓
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「マントラ」2008年~
土佐麻紙に雑誌コラージュ、クレヨン、ニス

日々、雑誌のページになにがしかのモチーフを描き込み、それを集積して大きな画面に仕立てています。
その時、時代を現わす雑誌の紙面に自分の痕跡をのせて集めると時間の流れが表現できるのだと思います。

大画面が続きましたが、いきなりこんな小さな立体作品が↓
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「トラとヒト」2003年
木、岩絵具、石膏、蜜蝋
どこかユーモラスな感じです。

続いて二つ目の展示室へ…今度は「クジラ」↓
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「アースクジラ」2018年
パネルに寒冷砂、岩絵具、土、石膏、金箔

大画面に青とアイボリーの色彩、石膏で作ったざらついた絵肌。
岩絵具と石膏はマットな表面感の相性が良いように感じました。
単純なモチーフのフォルムと単純な色彩で画面がこれだけ持つ…マチエールは重要です。

ずっと、動物モチーフがドン!と描かれた画面が続きましたが
そんな中で異色の一枚↓
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「セイメイノキ」2018年
パネルに寒冷砂、岩絵具、土、石膏、金箔

大きな木に「トリ」が集まり…樹上で人間を啄んでいるのでしょうか( ゚д゚ )
人型に見える白い姿に頭は見当たりません。
葬儀のやり方に鳥葬というのがあるそうですが、鳥に遺体を食べさせることで天に昇らせるという意味を持つとのこと。そんなことを連想しました。
木の下(地中?)にはクジラ?さかな?が描かれています。

そして「トリ」をメインに据えた作品↓
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「ダイアログ」2018年
パネルに寒冷砂、岩絵具、土、石膏

横たわるヒトと巨大なトリが何か意思でも通わせているように見えました。

青い「クジラ」がいたように青い「トリ」を主役にした作品↓
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「ブルーバード」2013年
パネルに寒冷砂、岩絵具、土、石膏

どこか漫画的な表現に親しみを感じる(?)
これも単純な形態と色彩でもって大画面を成立させる絵肌の効果が感じられます。

さて、3つ目の展示室は「本」をテーマにした作品群。
説明書きによりますと、イギリス滞在中に大英博物館の膨大な本のコレクションに触れてインスピレーションを得たそうです。

展示室中央にデンと存在する巨大なオブジェ↓
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「BBB.」1999年(2020年再制作)


本をブロック状に仕立てて(樹脂か何かで固めている)それを積み上げ二つの塊にしています。
使われている本自体も日本各地のローカルな歴史に関するものが多く、人間の過去の記憶を集積しているような意味合いが持たされています。
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二つの塊が相対する面は本の断面が露出しています。
内包された意味をビジュアル表現しているとも言えそうです。

「本」を跡形もなく処理したこんな作品も↓
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「BREATHSTONE」1999年
木、ポルノ雑誌

ポルノ雑誌を粉砕して固め、大英博物館に展示されそうな遺跡の一部のように仕立てた作品。
ややパロディ的な要素も含んでいます。

本を加工したこんな作品も↓
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「BOOKSTONE」1999年
本、土
ページをくしゃくしゃにすると膨張してしまうけど、それを半円柱型に固めるとあたかも木のように見えてきますが…紙の原料である木に戻ってしまうというコンセプト。

本には時々昆虫がはさまっていたりしますが、そんな虫をプレパラートのガラス板にのせて装飾を施した作品↓
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「本からの昆虫採集」1999年
木箱、プレパラート、虫、エナメル
ずらり並ぶと壮観です!

化石化した本?↓
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「土本」
本、土、ガラス、ニス

本当は数十点並んでいるのですが、上画像はその一部。
作家本人が興味をひかれたページが見えるよう窓が開けられガラスがはまってます。

何かの祭壇のような作品↓
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「Melodical Note」1995年
木、綿布、岩絵具、金箔、真鍮、アクリル、和紙、鉛

朽ちかけた木造建築のような質感。
今回の展示の中では初期の作品ですが、その絵肌感は一貫しています。

中央やや上にある点みたいなのは「オタマジャクシ」で、音符を表現しているのでしょうか。
この「オタマジャクシ」をモチーフとしたバリエーションが数点ありました。

ドローイングも展示されていました。
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金属板でできた動物キャラ♪
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さらに第二会場では…
絵本「あおいトラ」の原画が↓
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今回の展示のために描き下ろしたという幅約40mの作品!
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「メメントの森」2019-2020年
※本展描きおろし

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これまで見てきたおなじみの動物キャラも大挙登場。

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さて…こちらの美術館のコレクション展示もなかなか面白かったりします。
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福西 毅「LIFE'95-Ⅲ」1995年
ガラス(ホットワーク、キャスト)
セロリっぽいガラスのオブジェ。

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土田 麦僊「三人の舞妓(下絵)」1916年頃
紙本淡彩、二曲一双
構図を決める途中過程が見られる作品です。
意識的にリズムを生み出す曲線や日本画の画面に洋風の遊びであるトランプを描き込んだりと当時の美意識を知ることができますね。
ただ…作品中央にガラスの継ぎ目が当たってしまう展示位置が残念(´Д`)

そして、目玉作品!
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ピエール・ボナール「浴室の裸婦」1907年
油彩、カンバス

ボワボワしたタッチなのに画面全体はちゃんと組み立てられている不思議な作家。
初期のグレイッシュな色使いから、明るくなる過渡期の作品でしょうか。
複雑な塗り重ねが興味深いです。

もう一人美術史上のビッグネーム…ピカソ!
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パブロ・ピカソ「ギターとオレンジの果物鉢」1925年
油彩、カンバス

キュビスムですが、奔放なタッチではなく、カッチリ組み立てられた画面がピカソにしては珍しいように思います(おなじキュビスムでもブラックっぽいような気がします)

今回の展観では特に絵肌の重要性を感じました。
モチーフの質感を再現するという方向性もありますが、作品そのものの表面感を追求するのが20世紀以降の発想なのでしょう。