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「名画の謎 旧約・新約聖書篇」文春文庫
中野京子著 2016年3月10日初版

美術関係の出版物でよくお見掛けする人気作家の中野京子さんによる一冊。
この「名画の謎」はシリーズでどれもよく売れているらしい。

今回たまたま書店で見かけてこれを読みましたが…
・ギリシャ神話篇
・陰謀の歴史篇
・対決篇
があるようです。

「謎」とついていますが…絵画作品の背景となる聖書の物語の背景について語るというスタイルですね。
しかし聖書というのは様々な記述の記録が合わさって成立してきているので、記述が足りなかったり矛盾点があったりそもそも何を言っているかよくわからない部分があったりします。

そこについてはもろに「ツッコミ」を入れていて、それが一番面白かったりします。

なので「名画の謎」というよりは「名画の画題へのツッコミ」というのが正確なところでしょう。

巻末の解説文は野口悠紀雄氏によるものでタイトルは「本書を読んで教養を高め、尊敬を勝ち取ろう」
あくまで随筆を読むような感覚で雑学を知ることができる本書を的確に表現したタイトルと言えるんじゃないでしょうか。

ひとつ最も「はっ」とした作品は、ジェイムス・ティソの「十字架上のキリストが見たもの」という作品です。
19世紀後半の作家、作品でティソは印象派の画家とも交流があったようです(ドガが肖像画を描いている)
まさに画題の通りキリストが十字架上で見た光景をその視点通りに再現している画面になっているのです。
現代のVR的な視点が19世紀に存在していたということに軽い驚きを覚えるのでした。
おそらく産業革命以降、工業化が進み、合理的な発想が浸透して神の存在も物質的なとらえ方をされるようになったのでしょう。

取り上げられている題材はアダムの創造から最後の審判まで…と端から端まで押さえてあります。
聖書の中の記述はものすごく少ないのに、絵画作品は山ほどある題材はなぜそうなるのか?…そんなところも面白いと思います。

美術作品の文化的背景を理解するのに良い一冊。
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