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新潟市美術館で開催中の「アンドリュー・ワイエス展」を見てきました。
同じ新潟市内の万代島美術館が比較的絵画以外の展示もやるのに対して…この美術館はわりと玄人好みの(?)特別展をやるイメージがあります。
過去では山口晃とかかなり面白かったですね。

アンドリュー・ワイエスといえば20世紀アメリカのリアリズムを代表する画家です。
中学の教科書に作品がのっていた記憶があります。
それが「クリスティーナの世界」(1948年)※本展には出品されていませんが複製画が展示されていました。
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教科書には作品の背景など何も書かれていなかったのですが、調べてみると足の不自由なクリスティーナが足を引きずっても一人で移動する様を描いた作品とのこと。
本展ではその制作過程で描かれた習作が出店されていました。
どうです?習作はまだ静的、完成作品はより劇的な動きを感じさせるポーズになっていますよね。
完成作品にたどり着くまでの様々なデッサンが見られます。
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「《クリスティーナの世界》の習作」1948年

上のアンナ・クリスティーナ・オルソンが住んでいたのが、オルソンの家。
本展示の副題「オルソン・ハウスの物語」となっているのは、この家とそこに住む人々、周辺の風景に限った作品が並んでいるからなのです。
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「オルソンの家」1969年

また、本展示は120点の作品が見られますが、全て習作かスケッチ的な水彩作品です。
テンペラで仕上げられた完成作品はありません。

しかし、それ故に同じモチーフを何度も描きながら構想を詰めていった過程がよく見えます。
面白いのは、あたかもモチーフを目の前にして描いたように感じる画面もかなり再構成されたものなんですね。
プロの画家とは、同じモチーフを再現、再構成して描けることが一つの能力なのでしょう。

素描もクロッキーのような構図を探るようなラフなものから、最終作品の明暗計画を緻密にシミュレートするものまで非常に多彩でした。
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「《海からの風》習作」1947年 ※画像は図録から

個人的に印象に残ったのは「クリスチーナ」の習作で痛々しいほど細い彼女の腕を描いた素描です。
「美しい」ではなく別の価値観がそこにはあります。
ワイエスの「画力」がとんでもなく高いことがありありと感じられます。
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「《クリスティーナの世界》の習作」1948年 ※画像は図録から

また、年代の早いころの水彩画はかなり色彩豊かな画面が多いのですが、途中から明暗を軸にした表現に変わっていったことが分かります。
色彩の快楽よりも描くものの存在感を重視するようになったように感じました。

技法的には初期の水彩画で多用されている「ひっかき」が興味深かったですね。
ひっかくことができるということは、絵の具層に厚みが必要なはずで…普通の淡彩ではそんなことできないから、アラビアゴムみたいなものを混ぜたのか?…いろいろ想像が拡がります。
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「カモメの案山子」1954年 ※画像は図録から

モノクロかそれに近い色彩の作品ばかりで一見、地味な展示ですが、自分で絵を描く人にとっては特に面白いのではないでしょうか。

ワイエスの技がほとばしる水彩画の一例。
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「干し草をかき集めるアルヴァッロ」1947年 ※画像は図録から


2020年1月19日まで開催。

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私も買って持っている画集。