時代は変わり、国立の美術館でアニメーションに関する展示が公然と行われるようになりました。
令和の元号になった最初の年に高畑勲展が東京、竹橋の国立近代美術館で開催され、オンラインチケット買って見に行きました。
NHK連ドラ「なつぞら」で描かれたアニメーション制作のお話のモデルとなった人々の中の一人がこの高畑勲さんです。
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私の訪問した日は常設展は無料で展観可能でした。
(普通は特別展のチケットでそのまま見られたりします)
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展覧会の公式サイトのスクショです。
遺作となった「かぐや姫の物語」がメインビジュアルになっています。
展示を見ると…なるほどこれが集大成的な作品だよね…と思います。
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さて…そもそも高畑勲という人は…昨年亡くなっていますが、東大仏文科卒という「インテリ」な方でして…ただ単に「漫画映画」を作りたいという人ではなかったわけです。

最初のセクションではフランスのアニメーション映画「やぶにらみの暴君」に影響を受けたという内容が表現されています。
思想が語れるアニメーションを発見したといいます。

そして初監督の長編アニメーション(当時は漫画映画)
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当時の東映動画には労働組合があって、その組合員が集まって作った感がある作品です。
「民主的」に参加スタッフからアイデアを出してもらって、それをまとめ上げていった経過が当時の資料から読み取れる展示でした。
全体の流れ、ストーリーのテンションの強弱を描いたチャートなど面白い試みをしていたことが分かります。

一部映像も流れていて、とんでもない動画枚数のカットは…今の目で見ても(こりゃ大変だ!)という感じがありありと伝わりました。
興行的には全くの失敗作となってしまったわけですが、労働組合として作品のPRをしたパンフ(ガリ版?)などもあり、ただ作って終わりではなく観客に伝えたい!という気持ちも強かったのですね。

次のセクションは…パンダコパンダもあったのですが......やはり本命は「アルプスの少女ハイジ」ですね!
最初に大成功した作品です。

昭和49年にして(宇宙戦艦ヤマトと同時期)丁寧な生活描写を生真面目にやり遂げた作品です。
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展示では絵コンテから原画、動画、セル画、背景画、映像が見られたので、どのようにして作品が形になっていったかがよくわかります。
やはり、絵の展示はいいですね。
説得力が違います。

その後の「母を訪ねて三千里」「赤毛のアン」といった名作劇場路線もそれぞれ異なったテーマに挑戦するべく作られたことがわかります。

後半はジブリ時代の作品になりますが、「火垂るの墓」で精緻な絵作りはピークをむかえ、その後は次第に「抜いていく」表現に向かいます。

しかしながら、アニメーションにおいて線が抜けて途切れたり、余白のある彩色などはかえって手間がかかるものです。

現代においては「閉じた線」で描かれたキャラクターにPCで彩色しますが、これは絵が一枚あればできます。
ところが、「ホーホケキョ となりの山田くん」「かぐや姫の物語」では線画の他に彩色用の絵と背景から区別するためのマスク絵と3枚描き起こしたという展示をみて、とんでもない作業を強いる監督だったのだと思いました。
宮崎駿の語った「パクさんのあとにはぺんぺん草も生えない」という言葉を思い出しました。

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個人的に一番感心したのは、高畑勲という人は絵そのものに対して非常にラジカルな見方をしていたということです。
自分で描けてしまうがゆえにアニメ的な絵の表現から離れない宮崎駿とは好対照です。

宮崎作品は商業的には大成功を収めていますが、絵の質という点ではアニメ的なところからほとんど踏み出していません。
その代わり、画面密度と動きの密度を上げていきますが、ポニョで見られるウニョウニョとした動きなど、何とも言えない「不気味の谷」的な感覚を私は覚えます。

対して高畑監督は絵の質自体を改変して、「かぐや姫」では線そのもので何かを語らせる境地に到達したといえるでしょう。


この企画展で撮影できるのは、ハイジをテーマとしたジオラマと室内を再現したセットです。
ちゃんとSNSネタを用意するのもイマドキですね。
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物販コーナーは半分ジブリショップという感じでした(´∀`)

公式WEBサイト



コレクション展も見ましたが、近年再注目されているためか展示作品は入れ替わりますが常時何点か戦争画が見られます。
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岩田専太郎「小休止」1944年
本来は華麗な女性像が得意な画家だったそうですが、そんな「ものの役に立たない」絵ではなく軍隊をテーマに描いた作品。
線が上品ですね。

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中川研一「北九州上空野辺軍曹機の体当りB29二機を撃墜す」1945年
陸軍二式複座戦闘機「屠龍」が体当り攻撃でB29を撃墜した場面ですが、機体形状などかなり正確な気がします。

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小川原脩「成都爆撃」1945年
陸軍99式双発軽爆撃機でしょうか?
プラモデルのボックスアート的に見える作品。

戦争画以外で面白いと思った作品。
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荘司福「土」1982年
紙本彩色とあるので日本画の手法で描かれていますが、抽象的でモネの睡蓮を連想させる画面です。

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川端龍子「草炎」1930年
濃紺の地に金泥で描いたネガポジ反転しているようにも見える不思議な画面。
非常に技巧的な筆遣いです。
部分拡大↓
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宮本和子「エジプト」1975年
壁に直接釘を打ち、多数の糸を張った作品。
独特のリズム感のある構成ですね。

他にも高畑勲=アニメーションというところから、アニメーション・漫画的な表現の作品として絵巻物の様式の作品やずばり漫画のコマ割りで描かれた作品もありました。

やはり「近代美術館」ということで、バラエティに富んだ作品が見られてなかなか面白いです。

公式WEBサイト


高畑勲の著書


その他関連


高畑が影響を受けた「やぶにらみの暴君」の完全版