三菱一号館美術館で開催中の「ラファエル前派の軌跡展」を見てきました。
ラファエル前派というタイトルですが、ポイントは19世紀ビクトリア朝のイギリスで大きな影響力のあった評論家ジョン・ラスキンで、彼の影響がどのように拡がっていったのかを辿るような構成になっています。
ジョン・ラスキンという人については…確か高校の英語の教科書に載っていたような…ラファエル前派までは擁護していたラスキンですが、印象派的な手法を使ったホイッスラーを酷評して裁判沙汰になったあたりの話だったと思います。
今回の展示について人物相関図が公開されています。
最初の部分で興味をひかれたのは、ラスキン自身の素描が多数展示されていたところ。
ジョン・ラスキン「モンブランの雪―サン・ジェルヴェ・レ・バンで」1849年
ラスキンの素描作品は風景、建築物、イタリアルネサンスの模写等で、非常に繊細なタッチに驚きました。
ヨーロッパアルプスに目を向けたのも早い方じゃないかと思います。
ジョセフ・マラード・ウィリアム・ターナー「カレの砂浜―引き潮時の餌採り」1830年
最初にラスキンが推したのがターナー。
光や空気感まで表現するところが自然表現を重視したラスキンに気に入られたのかな?
続いて、ラファエル前派のメインとなった作家の作品が展示されている部屋はなんと撮影OK!
珍しいです。せっかくなので額縁つきの画像で紹介します。
ジョン・エヴァレット・ミレイ「結婚通知―捨てられて」1854年
絵の上手さという点ではラファエル前派で一番と思われるミレイ。
ただ…個人的にはストーリー性を強調し過ぎというか、劇的な効果で媚びているように思っちゃうのでした(´Д`)
まぁ…ビクトリア朝時代はこういった感傷的なのがウケていたのでしょう。
ウィリアム・ホルマン・ハント「甘美なる無為」1866年
ミレイに負けず劣らず絵が上手いハント。
やはり芝居がかった場面作りが多いようです。
そして、展示のメインビジュアルにもなっているロセッティ。
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「ウェヌス・ウェルティコルディア(魔性のヴィーナス)」1863-1868年頃
ロセッティの描く女性像は特徴がはっきりしています。
厚めの唇に鼻と口が近い…彼の好みが反映しているのでしょうか?
ジョン・ロバート・パーソンズ「ジェイン・モリス」1865年(湿板写真)
モデルを務めた女性の写真ですが、ロセッティ作品の女性像の雰囲気がありますね。
↓この絵は上の写真と同一人物ですね。
ロセッティは妻がいたにもかかわらずジェインに想いを寄せ、それはジェインが弟子のウイリアム・モリスと結婚しても続いた…どうもスキャンダラスな話はラファエル前派につきもの?
ミレイもラスキンの妻だったエフィー・グレイと結婚するという三角関係ストーリーがあったようです。
さて、展示の中盤はラファエル前派の影響を受けた画家達の作品が並び、19世紀イギリス美術に彼らの作風が浸透していったことが分かります。
後半はロセッティの影響を強く受けたエドワード・バーン=ジョーンズの作品が多数並んでいました。
エドワード・バーン=ジョーンズ「慈悲深き騎士」1863年
ロセッティの影響が直接的に感じられる作品ですね。
水彩絵の具を使っています。
ロセッティはじめラファエル前派の作品は油彩でも水彩でも印象はあまり変わらないように思います。
エドワード・バーン=ジョーンズ「赦しの樹」1881-1882年
バーン=ジョーンズはラスキンとイタリアを旅行したそうですが、その時にイタリア絵画を見たのか…ルネッサンス~バロック的な裸体表現だと思います。
最後の展示はラファエル前派から派生したアーツ・アンド・クラフツ運動での様々な製品が並んでいました。
バーン=ジョーンズは工芸デザインも多数手がけていて、下のタイル絵も彼の作品。
モリス・マーシャル・フォークナー商会
「シンデレラ―『灰かぶり娘』と呼ばれていた娘がガラスの靴を与えられ、やがて王女となる物語」
1863-1864年
他にもバーン=ジョーンズが手掛けたステンドグラスの展示もありました。
ウイリアム・モリスが主導したアーツ・アンド・クラフツ運動は産業革命で粗悪な量産品が出回ったことに対するもので、フランスのアール・ヌーヴォー等にも影響したそうです。
モリス・マーシャル・フォークナー商会「3人掛けソファ」1880年頃
繊細な曲線を持つ背もたれ~ひじ掛け、座面の有機的な植物モチーフの柄が特徴。
結構な高級品に見えますね。
19世紀イギリスで、アカデミックな美術観から脱却し、産業革命の大量生産品ではなく芸術と生活を一致させる製品を生み出した…ジョン・ラスキンの影響が社会を変えていった一側面が見られる展示でした。
三菱一号館美術館展覧会公式サイト
作品リスト
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