「王の画家にして画家の王。」ウマいコピーです。
2018年11月1日、国立西洋美術館にルーベンス展を見に行きました。
この秋、上野はこの「ルーベンス展」、東京都美術館で「ムンク展」、上野の森美術館で「フェルメール展」と大変なことになっています。
ルーベンスという画家が活躍したのは17世紀前半…ヨーロッパではプロテスタントに対抗すべくカトリックが劇的な美術作品で信者に訴えていた時代です。
自然と画面も巨大化し、人気画家になると制作点数も膨大なものになっていったようです。
フランダースの犬で知られるアントウェルペンの大聖堂にあるルーベンスの作品も巨大なものです。
最近の展覧会は入る直前に概要を解説する映像を流していますが、今回はいつもの数倍の規模のスクリーンが使われていました。
現在のベルギー、当時フランドルと言われていた地域で活躍したルーベンスですが、その絵画はイタリアの影響を強く受けていたんだよ…というのが今回の大テーマです。
美術技法の歴史書などみると、ルネッサンス期に比較的「かっちり」描かれていた北方の技法に南方イタリア(特にベネツィア派)の技法を合わせたのがルーベンスであったと書かれていたりします。
「毛皮を着た若い女性像」1629-1630年頃
ベネツィア派のティツィアーノの作品をルーベンスが模写した作品
生き生きした肌色の表現が得意なルーベンスですが、その源泉にはティツィアーノの技法があるのだと思います。
毛皮に女性の肌という、フェチっぽい構成は形を変えて繰り返し出てきます。
「パエトンの墜落」1604-1605年
若きルーベンスがイタリア滞在していた時代の作品。
一般的に若い時代に見られる堅さはほとんどなく、動きにあふれダイナミックな作品です。
色彩はベネツィア派の柔らくも華やかさを持った特徴が現れていますね。
実物を見たら予想よりだいぶ小さかったです。
「セネカの死」1615-1616年
沢山の注文をこなすために工房での量産体制がとられていたわけですが、その工房でのハイクオリティな作例でしょうか。
セネカの顔だけはルーベンス直筆(やや密度が高いような気がします)その他は弟子に描かせたそうですが…全体のクオリティは高いなぁと思った一枚。
人間の肌表面に見られる血色を朱色、影は青系で表現するルーベンスのスタイルもよくわかります。
セネカの頭部は古代彫刻から取られていますが、石の彫刻から生きた人間の肌に見せる技術はスゴイ。
「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」1615-1616年
自分の娘の肖像ですが、子供の個性を十二分に表現する繊細さが発揮された傑作ですね。
ふわっとした髪の表現は職人技!
そして、晩年近くなって円熟味が感じられるのが…
「聖アンデレの殉教」1638-1639年
最後の大画面宗教画とのことです。
描かれたストーリーを雄弁に表現する登場人物の手の表情も実に見事ですが、自由闊達な筆の運びがやはりティツィアーノの晩年を彷彿とさせると思いますがいかがでしょうか。
昔から国立西洋美術館に所蔵されていたルーベンス作品も総動員でした。
「眠るふたりの子供」1612-1613年
ルーベンス直筆の小品ですが、童子として表現される天使やキューピッドのモチーフのカタログ的な役割も果たしたそうです。
ここで、気づいたのはプロというか職業画家の必要技能は、モチーフや画面構成の再現力なのかな…ということ。
画面上、必要な箇所に必要なモチーフを必要に応じて再現し配置できる能力です。
そのために修行として何度も模写が行われるのでしょう。
さて、現代美術展において欠かすことのできない物販です。
定番アイテムのクリアホルダー。
表面は背景を抜いて人物のみ…印刷精度は極めて高いと思います。
インクジェットを使ったのか?
「パエトンの墜落」を高精度プリントで再現したブランケット。
お値段もだいぶセレブです(;´∀`)
やはりありました、フランダースの犬グッズ。
こちらはいずれもお求めやすい価格ですね。
ここで一つ、前売り券についての問題…
有名シェフの料理付きとか、トークショー付き等…特典付きの前売りチケットが出ていましたが、それらではなくて会期前の割引価格チケットがですね…
通常当日券(一般)が1600円
チケットぴあ扱いの前売り券だと1400円…なんですが…これが必ずセブンイレブン等リアル店舗で発券しなければならないのです。
その際に発券手数料108円乗りますので、合計1508円となり通常で買うのと比べて92円だけの差になってしまいます。
他の展覧会でも使われる携帯電話の画面にQRコードを表示するシステムでは発券手数料は発生しません。
リアル店舗に誘導したいのだろうと推測しますが、あまりに金額的なアドバンテージがないのではないでしょうか。
92円安いとはいえ、通常購入で得られるはずの絵柄もないチケットしか手元に残らないわけです。
だったら、列に並んでも通常購入のチケットでもいいんじゃないか?…なんて思っちゃうわけです。
チケットの問題はそれくらいにしておいて…本展示のSNS告知について。
展覧会開始の丸々一年前からFacebook、Twitterで告知開始したようですが、担当者の視点が色濃く反映された内容で「発信者のキャラ」が明確に表現されていました。
締め切り迫る中…必死に図録の校正をしているかと思えば、作業中にネコが乱入したり…
本当にあと一息。猫編集長も脱走寸前。関連する画家だけでもベルニーニ、ピエトロ・ダ・コルトーナ、ドメニコ・フェッティ、ルカ・ジョルダーノ、ジョヴァンニ・ランフランコ、グイド・レーニ、ティントレット、ティツィアーノとあり豪華な顔ぶれ。#ルーベンス展 #国立西洋美術館 #図録 #時間がない pic.twitter.com/arEEOLej0E
— ルーベンス展ーバロックの誕生/王の画家にして、画家の王 (@rubensten2018) 2018年9月16日
顔こそ見せませんが、発信者に感情移入できる表現がなされていたのです。
こうなると、SNSを見ている人間も共感から共犯者的な感情に至り、会期が始まると見に行かずにはいられなくなるのです。
Twitterで話題になったシャープやタニタの広報…エクスペリエンスマーケティング等…個人的に思う現代ネットでの最先端のPRと共通する感覚ですね。
ともかく、展示内容は文句なくオススメです。
年明け1月20日まで東京上野の国立西洋美術館で開催。
展覧会を見る前の予習によさそう
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