meisaku_tanjou_top
私、全然知らなかったのですが「國華(こっか)」という美術専門誌があったんですね。
あの岡倉天心が創刊にかかわっていたそうで…その「國華」の130周年記念を記念した展示らしいです。

5月27日で終了とのことで、19日に見てきました。
WEBサイトを見ると国宝・重文多数で結構スゴイ内容みたいなので即決です。
内容のわりに空いていて見やすかったですよ。

全体的には奈良時代の仏像から大正の岸田劉生まで、日本美術史中…いくつかのテーマ別に前の時代の影響がどのように作品に現れているかを示しています。

テーマ1:一木の祈り
唐から伝来した木彫による仏像が奈良時代から平安時代にかけていかに日本に根付いていったか

itiboku

それ以前から一木造りの仏像はあったにはあったそうですが、奈良時代以降に木彫の像が主流になったそうです。
有名な唐の高僧鑑真が中国から仏師を同伴したのですが、中国式では石彫であった仏像を作ろうにも日本に適する石材がなかったため木材から作ることにした…ですって。

彫りの深い唐の仏像を手本として、次第に日本風に消化されて平安時代にはやや平面的な彫りになっていきます。
ですが、頭身などはかえって現代風に頭部が小さくスキッとしたフォルムになっていくように感じました。


テーマ2:祈る普賢
「像に乗る仏」=普賢菩薩の表現が仏像と仏画でどのように展開したか

平安時代になぜか普賢菩薩が流行ります。
象に乗って胸の前で手を合わせるのがお約束とのこと。
ふげんぼさつ_ぞう
↑ この仏画(東京国立博物館蔵)は確か学生時代に見た「国宝展」で見たような気がします。
…まぁ、約30年ぶりの再会というわけです。
繊細な曲線が印象的ですね。

ふげんぼさつ_ぞうぞう
で、立体として表現したものがこれ(結構大きいものです)
恐らく実際の象は見たことないと思われる仏師がしっかり立体化しています。

こんしきんじふげんぼさつ
紺紙金字観普賢経(平安時代1172年)
濃紺の紙に金泥・銀泥で描かれた普賢菩薩です。
こうした表現は他の時代には見られないレアものですね。ものすごく繊細です。


テーマ3:祖師に祈る
主に「聖徳太子絵伝」での絵画表現


テーマ4:雪舟と中国
中国の水墨画を雪舟はどのように日本に取り込んだか

雪舟を軸に中国との関係性を表現した展示。
破墨山水図を期待していたのですが…展示はGW期の前半展示で見られませんでした…残念!
(他にも前半展示で名品が多数あったようなので、二回行くべき展示でしたね)

しかし…天橋立図が見られたのは良かった!
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現代風に言えばドローン空撮的な画面ですが、雪舟の生きた室町時代に空から見る方法などあろうはずもなく、まさに画家のイメージで作り上げられた画面です。
見えた通り以上のイメージを構成できる…超一流の絵師(この時代は画僧)のなせる技!

雪舟が超一流と言われるのは、「中国の○○風に」というオーダーにもバッチリ応える器用さを持ちながら、独自の表現もどんどん開拓していったところでしょう。
現代に生まれたとしても我々が驚くような表現をしていたに違いありません。


テーマ5:宗達と古典
古典のテーマを俵屋宗達はどのように新しい表現にしたか

安土桃山~江戸初期の俵屋宗達を軸に組立てたセクションですが、仏教美術や大名等権力者の装飾美術ではなく豪商など市民階級の富裕層向けの美術が成立したときどうなったか…がポイントだと思いました。
せんめんちらしびょうぶ
↑この扇が散らされた屏風が顕著な例ですが、絵のテーマ性はほとんど感じられなくなり見た目の面白さが最優先されています。
恐らく世界初の「コラージュ」表現ではないかと思われます。
ブラック、ピカソ等に先駆けること約300年ですよ!
日本人が真っ先にテーマ性を排して純粋に造形的な組み立てをしていたわけです(超平たく言うと「見て面白いからそれでいいじゃないか!」)


テーマ6:若冲と模倣
伊藤若冲も中国絵画のモチーフを模倣しているが、そこからいかにして独自の表現に至ったか

いわゆる花鳥画の分野でも日本の美術は中国の影響下にあったわけですが、そこからいかに独自性を発揮していったかが展示されています。

展示では鶴の図像を例にとって、狩野探幽らが中国の作例から日本に取り込んだ時にどのようにアレンジされたかが示されています。
turu_mosya
↑ 左:文正筆(元~明)右:狩野探幽筆(江戸時代前期)

若冲はモチーフを何度も使いまわしていたようですが、それでも次第に表現を高めていった…その到達点が下の「仙人掌群鶏図」でしょうか。
鶏の尾羽のうねり!画業の中で様々に表現していた鶏の図像の集大成の画面になっています(´∀`)
さぼてんぐんけいずふすま


テーマ7:伊勢物語
古典文学作品である伊勢物語が江戸時代にどのように表現されたか

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ほとんど抽象画のような画面です。

俵屋宗達の純粋造形志向がうかがえる屏風です。
非常にグラフィカル!


テーマ8:源氏物語
平安文学である源氏物語が後世どのように絵画・工芸品で表現されたか

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これは、超絶技巧です。
日本の工芸技術の粋をつくした作品です。
ぜひ、実物を見るべき。


テーマ9:山水をつなぐ
山水というテーマ、モチーフが時代を下るにしたがってどのように影響・アレンジされたか

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雪舟の富士山図像を下敷きに後年イメージは再生産されています。
↑上画像は曽我蕭白の「富士三保松原図屏風」
富士山のイメージはそのまま引用されていますが、虹が描かれているのが珍しいです。


テーマ10:花鳥をつなぐ
花鳥画モチーフの時代による表現の変遷

蓮、雀などのモチーフがどのように受け継がれていったか。
平安時代の蒔絵の箱など貴重なものが展示されていました。
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テーマ11:人物をつなぐ
人物テーマの時代による変遷

風俗画的な人物像の変遷を見るセクションですが…やはり菱川師宣の「見返り美人図」がキモでしょう。
mikaeribijin

風俗図屛風(彦根屛風)…彦根藩伝来の作品
画面右側の人物のデフォルメが常軌を逸している、ある意味日本的な人物表現。
ふうぞくずびょうぶ



テーマ12:古今をつなぐ
岸田劉生が影響を受けた古典作品を並べてみる

岸田劉生さんはそのひ孫が私の同級生だったこともあり、特別な感情をもつ作家です。
古典作品から着想を得て、油彩やテンペラなど西洋絵画の技法で表現した人ですね。
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道路と土手と塀(切通之写生)
これは葛飾北斎の浮世絵の構図から着想を得たということです。

くだんうしがふち
葛飾北斎「くだんうしがふち」

北斎自身、西洋絵画の遠近法の情報は持っていたようですので、より洋画表現には取り込みやすかったのではないかと思います。


展示のクオリティとしてはかなり高いと思います。
日本の美術が前の時代からいかに影響を受けつつ独自の表現に至ったか…時空を超えて作品を編集して見せていると思いました。


この後、同じ平成館の1階で展開していた「考古展示室」まで見ましたが、これがまた…良かったですよ(´∀`)