※本記事はブリザード教会のホームページ「業界の実際」コーナーより一部加筆修正したものです。

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※上イラストのウエアデザインは、当時こんな感じのやつがあったな…という程度のものであり実在した製品のデザインではありません。



昔のスキーウエアは「ガンダムみたい」と言われることがあった。
一時期、白が必ず使われていて、肩ががっちり張っていたからであろう。
スキーウエアはややもすると独自のデザイン傾向があると思われがちであるが、実は一般アパレルのトレンドと無縁ではない。


80年代後期、バブルの頃のテーラードぼジャケットは肩が張っていて大まかに言うと軽い逆三角形のアウトラインであった。
そのすぐ後にスキーウエアもどんどん肩が張ってきたのだ。


スキーウエアの世界でさらにその傾向が進むと脚はタイトフィットのデモパンになり、肩の幅が限度いっぱいに拡げられ、さらに幅を求めようと侍のカミシモ状のデザインが登場した。
90年頃にその傾向はピークを迎えていたように記憶している。
この時代は、無理やり上半身のアウトラインを拡げることに躍起になっていたと言える。
当然、中綿はどんどん厚さを増して数年で数倍になった。
中綿では足りず、実際着用している人間の身体より不自然なほど大きく見せるために肩パットは必ず入っていた。しかも直径が20cm位もある巨大なものだ。


話は肩だけではすまない。
ポケットにかかる「フラップ」というパーツに「厚みが見られないと」社内で大問題になった。
D社のデモウエアが売れたときのことだ。
「何でウチのウエアにはこんな薄い芯しか入れていないのだ!D社みたいな厚い綿を入れろ!」と、社長から直々にお叱りを受けるのである。
D社の方が売れ行きが良くて自社の売れ行きが負けているのはこの「フラップ」の厚みが原因だ!などということになってしまう。
「フラップ」以外の部分も見てくれなどと言い出せばもう大変…
「フラップ」ひとつまともに仕上げられないで勝負になるものか!大体お前は○×□△※!!!
…どうしようもない。


他にも切りかえで縫ってある部分に段差がなく立体感がないとなるとこれまた大騒ぎになったものだ。
本当のところ切りかえ部分で立体的に見えるかという要因はたくさんあって、素材の厚さ・張り・コシ、糸の太さ、縫うときの力加減などが複雑に絡み合うのである。
複雑だなどと言っていてもしょうがないので、とりあえず取られる対策というと下記のような方法があった。
まず、切りかえといえば通常二枚のパーツを縫い合わせるのだが、中間に同じ素材の帯状のパーツを縫いこんだり、帯状の綿を入れたりして厚さを増やすという方法。
さらに1~3cmめくれるような構造にする、「ふらし」を作る方法が取られることもあった。
この「ふらし」の下にキルトを刺したパーツを配するような構造にさらにフラップがかぶる…などと言葉で言ってもよくイメージできないようなデザインもあったのだ。


プリントなど柄物がメインになる前は、とにかく厚みがあり立体感があるというのが売れるスキーウエアの必要条件であった。
そのためには本来スキーに必要な機能とは関係ないデザインが表に裏に施されていたのだ。 
確かにペラペラのフラップは、二流ブランドのウエアによく見られたので、全体的な立体感は商品の印象を左右してはいたが、そこはバランスの問題で簡単には答えが出るものではなかった。