※本記事はブリザード教会のホームページ「業界の実際」コーナーより一部加筆修正したものです。
1990年代、あるときウエアが重いということが問題になったことがあった。
ちょうどウエアの形がどんどんオーバーサイズ気味になってきた頃だった。
アウトラインが大きくなれば中綿も厚くなるし、細かな立体感にこだわれば、パーツ分割は多くなりその分縫い代も増える。
重くなる方向で開発を進めていたのに、いまさら重過ぎるとは…
どうもP社のウエアが重いという指摘がどこからかあったようで、私たちも他社のウエアと着比べてみたりしたものだ。
ところが、他社でも重く感じるものはあったし、そんなに騒ぐほどのことはないような気はした。
ともかくウエアの重さを開発段階から量っておこうということになった。
ちゃんと経費で秤を買ってきて、一着一着重さを記録したのだ。
当時、試作品のウエアが出来上がってくると当然デザインの検討をするが、最後に「このウエアは○○○gです」と重さが報告される。
しかし「.......」基準がないと評価不能であった。
もちろん、着用して重く感じるかはチェックしたが、これとて明らかに問題を指摘できるかといわれれば疑問があった。
他社のウエアも代表的なものは量っていった。
やはりP社が特に重いということはなかったと思う。
ウエアの重さというのは単純には評価できない問題である。
問題となるのは着用したときの感覚であって、実際の「質量」としての重さではない。
着る人の体格・体形が変われば感じる重さも変わるだろうし、重さが身体のどの部分にどの程度分散してかかるかでも変わる。
結局、何gなら重いのかという基準は作れずじまいでこの騒ぎもフェードアウトしてしまった。
本気で評価するならば、サイズのあった標準的な体形の被験者を複数用意してその多数決にするとかしないと偏ってしまうだろう。
さらに、「設定サイズ・体形から外れる場合はウエアが重く感じることがあります」などと過保護表示をつけるのも手ではある。
21世紀になって、P社のウエアは軽さを売り文句にすることが多いようだ。
実際の「質量」の軽さと、肩付近の形の作り方で重さが負担にならない形状にしているという内容だ。
騒ぎから長い月日が流れたが、教訓は生かされたと言えるのかな?
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