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日本において何年かに一回は開催されるゴッホ展。
やや異常ではないかとすら思えるペースですが…今年もやってきました。

直近では2019~20年に上野の森美術館でオランダハーグ派との関わりにフォーカスした展示、その前は2017年に今回と同じ東京都美術館で日本美術との関係性にフォーカスした展示がありました。

今回はゴッホ最大の個人コレクター、ヘレーネ・クレーラー=ミューラーのコレクションを中心とした内容です。
クレーラー=ミューラー美術館公式サイト


クレーラー=ミューラー美術館のWikipedia



クレーラー=ミューラー美術館のゴッホ以外の作品も紹介しつつ、面白いのは素描が多数出品されている点です。

新型コロナの影響が縮小しつつあるとはいえ、いまだ感染対策は必須という世の中ですので、オンラインでの日時予約が基本という運営です。
ポジティブにとらえれば、極度な混雑が回避できるので、まぁ悪くはないと思います。
しかし、人気企画なだけにまともに日時指定しようとすると2週間以上先の平日くらいしか狙えないという状況で、数日前に見に行くことにした私はリスク覚悟で当日券狙いで新幹線に乗ったのでした。
(当日券は各時間枠に上限設定あり、先着順で販売)

9:30開場でその少し前に上野に到着。
上野駅公園口前の車道が駅前で通過できなくなっていることに驚きながら都美術館へ。
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美術館前には100人以上?200人くらい?
これは日時指定券持ってる人も当日券の人も混じってますので、当日券の競争率がどのくらいかはさっぱり分かりません。

時間になり館内に入って当日券列に並ぶとこんな感じ。
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列の並びは数十人といったところですが、時間枠に何人割り振られているかは不明。
早い時間から売り切れると「〇時〇分は売り切れです!」とアナウンスされます。

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結局、私は10:30の枠になりました。
入場まで50分程度(・´з`・)
無料で見られる「都展」を軽く見て時間調整…。

入場すると最初のセクションはゴッホ以外でヘレーネの収集した画家の作品。
19世紀、JFミレーから始まります。

中には印象派のルノワールあり
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ピエール=オーギュスト・ルノワール「カフェにて」1877年

印象派と同世代ですが写実スタイルの画家も
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アンリ・ファンタン=ラトゥール「静物(プリムローズ、洋梨、ザクロ)1866年
よく描けている作品です。

新印象主義の点描系の作品
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ヤン・トーロップ「版画愛好家(アーヒディウス・ティメルマン博士)」1898-1900年
かなり色々なスタイルで描いた画家ですが、本作は点描です。

そして、象徴主義な作品も
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オディロン・ルドン「キュクロプス」1914年
一つ目の巨人キュクロプスがどこか愛らしい作品ですが、ルドンの画集と言えば本作は必ず収録されます。

ど抽象のモンドリアンまでありました。
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ピート・モンドリアン「グリッドのあるコンポジション5:菱形、色彩のコンポジション」1919年


…でもって、ゴッホの作品が始まるのですが、まずはワンフロア素描です!
素描だけで(一枚だけリトグラフ)20枚というのはなかなかないですね。

オランダ時代、画家を目指して油彩画の前に素描を多く描いた時期があったそうです。
面白いのは、結構大きい作品ばかりだということ。
目の粗い水彩紙や木炭紙(?)にガシガシ描いてます。
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「刈り込んだ柳のある道」1881年
この木のモチーフは後年出てきます。

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「砂地の木の根」1882年
本作は鉛筆、チョーク、透明&不透明水彩を使って技法的にゴッホは相当工夫していたことが分かります。
濃淡のコントラスト、こすって作ったグレートーン、遠景は一度のせた黒を落としたりして…正直感心しました。

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「籠に腰掛けて嘆く女」1883年
人体の形をなぞるようなタッチ。
油彩画でも同じ意識で描かれていて、その一貫性に気づかされたのでした。
それにしても全体に線が強いです。


次にオランダ時代の油彩画。
ここからは年代順に展示されていました。

なんと、本当に最初期の作品が!
Van_Gogh_-_Stillleben_mit_gelbem_Strohhut
「麦わら帽子のある静物」1881年
ハーグ派の画家に教わりながら描いたのでしょう。
基本に忠実に仕上がっているように見えます。

もう一点、初期作でヘレーネが最初に購入したというゴッホ作品。
Van_Gogh_-_Waldrand
「森のはずれ」1883年
これら2点を見ると、なんだ普通にも描けるじゃないか!とも思いますが…これでは多くの画家の中に埋もれてしまいますね。

皆と一緒じゃダメだ!自分の表現したいものはこうなんだ!…と思ったかは定かでないですが、素描に見られる線の強さが現れ始めた作品。
Van_Gogh_-_Kopf_einer_Bäuerin_mit_weißer_Haube12
「白い帽子を被った女の顔」1884年11月–1885年5月
色彩はオランダの画家みたいな渋さですが、筆致は独自性を発揮しています。


次にパリに出てきた時代の作品。
印象派、新印象派の画家達と知り合い影響を受けます。
Van_Gogh_-_Interieur_eines_Restaurants
「レストランの内部」1887年
これは明らかに新印象派の点描技法を使っています。
色彩はオランダ時代とはうって変わって明るくなっています。

Van_Gogh_-_Stillleben_mit_Gipstorso,_einer_Rose
「石膏像のある静物」1887年
線的な筆致に黄色と青の対比と、ゴッホの個性が確立していますね。


次にパリを離れ画家の理想郷をつくるべくアルルに向かいます。
…がアルルのセクションの前にファン・ゴッホ美術館所蔵の作品が(ここでご紹介する作品はアルル時代ですが)
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「黄色い家(通り)」1888年9月 
アルルで画家の理想郷にしたかった有名な「黄色い家」
ここでも黄色と青の対比。

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「サント=マリー=ド=ラ=メールの海景」1888年6月
正直驚いた作品。
これは「マネが描いたんだよ」言われたら(サインはナシとして)そんな風にも見えるんじゃないでしょうか。
それでもやはり青い波の合間に黄色のタッチが混ざっています。


次にアルル時代のセクション。
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「レモンの籠と瓶」1888年5月
色遣いはまさに「ひまわり」と同じ。
ほぼ黄色主体で画面が出来上がっています。

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「サント=マリー=ド=ラ=メールの眺め」1888年6月1〜3日
紫、緑、黄色にポイントの赤というゴッホにしてはやや珍しい色彩。
下半分を占める直線の畑と建物が折り重なった町の対比が面白い。
彼の別の引き出しが分かります。

The_Sower
「種まく人」1888年6月17-28日頃
JFミレーの作品を下敷きにした超有名作。
黄色で太陽と空全体を描くというのが実に独創的。
画面下側中央に色を上塗りして試行錯誤の形跡あり。


ゴーギャンと揉めて耳切り事件を起こしたりしてサン=レミで入院、そして最終の地オーヴェール=シュル=オワーズ時代
The_garden_at_the_asylum_at_Saint-Rémy
「サン=レミの療養院の庭」1889年5月 
入院しながら施設の庭を描いた作品。
本作については下側はゴッホらしい意思のある線が見られるが中央から上の木の葉が茂る部分はやや雑然として未整理に感じます。

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「麦束のある月の出の風景」1889年
黄色と青の対比で画面を組み立てて白っぽい点が全体をまとめている作品で、それ故夜景にしては明るい表現になっています。
だいぶ「作った」画面ではないでしょうか。

Van_Gogh_-_Der_barmherzige_Samariter
「善きサマリア人(ドラクロワによる)」1890年
ドラクロワも線というか筆致がウネウネしている画家です。
そのドラクロワの構図で独自の色彩で表現した作品。
ここでも色彩は黄色と青の対比が中心になっています。

今回の展示のメインビジュアルになっている作品↓
Van_Gogh_-_Country_road_in_Provence_by_night
「夜のプロヴァンスの田舎道」1890年5月12-15日頃
夜景のはずなのに妙に明るい、ゴッホの得意技ですね。
色の線と色面で画面が構成され、糸杉も人物も右側の馬車と家も等価で表現、遠近感を持たない平面での秩序が支配しています。

Van_Gogh_-_Blühende_Kastanienbäume1
「花咲くマロニエの木」1890年5月22–23日
ものすごい早描き…というかほとんど油彩スケッチのような作品。
木陰の紫が面白い。

Van_Gogh_-_Trauernder_alter_Mann
「悲しむ老人(永遠の門にて)」1890年5月
オランダ時代の素描がそのまま油彩になったような作品。
ゴッホの表現の一貫性を強く感じます。
これが夫アントンからヘレーネへの結婚記念日プレゼントだったというから…お金持ちはスゴイ!

全体通してみて…
素描で20点も揃えたのは非常に面白かったです。
基本ほぼ一色で描いた素描の画面の強さからは「これを表現したい!」という意志の強さを感じます。
それは油彩でも全くぶれることなく表現されています。
おそらく当時は前人未到の表現方法だったと思いますが、自分を信じるとはこういうことなのでしょう。

ゴッホがあと1~2年でも長く生きていれば生前にブレイクできたのではないかという見方があるようです。
実際には死後に評価が高まったわけですが、ヘレーネがゴッホを高く評価して大量に収集したことがそのきっかけの一つになったそうです。
需要と供給ではありませんが、欲しがる人がいて評価が上がってくるという市場原理があったのでしょう。

さて、物販も人気展覧会だけあって充実していました。
絵葉書、複製画、アパレル、雑貨等…

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なんか小瓶が並んでるな~と思ったら、ウォッカ( ゚д゚ )

お菓子もヨーロッパのオシャレなのが…と思ったら
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こんなものまでw

日時予約できなくても、平日であれば朝イチ並んで当日券で見られました。
見ておいて損はない展示です。
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