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写実絵画好きな人々の間で、近年注目されている髙島野十郎。
画家の小木曽誠先生のYoutube内でも言及されていました。

たまたま高崎市美術館で展示されていることを知り、期間終了直前に慌てて見に行きました。
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JR高崎駅近くにある美術館ですが、比較的縦長でコンパクトな建物ですね。
正面入り口上に展覧会の大きな表示が!

本展示のフライヤーの表紙は代表作の一つ「からすうり」
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調べると、野十郎は九州福岡県の出身で東京帝国大学農学部水産学科を主席卒業。
学業も優秀だったが、画家になったという。
実家は醸造業(酒?)でおそらく資産家だったと思われ、戦前に海外渡航して絵画の研究を行ってます。
この辺は、東京ステーションギャラリーで見た小早川秋聲と共通しますね。

さて、本展示では高校生時代の作品から展示されていました。
大学在学中にも描き続けていたようです。

その初期作品を見た私の印象は…
・線がうねっているところがゴッホ的(?)
・影の黒い写実表現が岸田劉生的
・自画像からはかなり自意識の強さを感じる

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「ひまわりとリンゴ」(図録より)
大正期、最初のゴッホブームが起こったと思いますが…おそらく原画など見る機会はなくほとんどの人は印刷の図版で見ていたと思われます。
そんな情報量の中で若き野十郎が「ゴッホ風」に描いた静物画でしょう。
しかし、線のうねりはゴッホの影響以前に彼自身の描画のリズム感みたいなものとして持っていたのではないかと思います。

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大正期の自画像2点(図録より)
画面の中からこちらを見つめる視線から強い自意識を感じます。
特に右側の「絡子をかけたる自画像」は正面性の強い構成など、岸田劉生を通じてデューラーの影響を受けているように見えます。

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生涯にわたって植物を描き続ける野十郎ですが、その初期作「けし」(図録より)
やはり全体にうねりのある線が目につきます。
そして黒い影と強めのハイライト、しつこく描かれた花びらや葉っぱのエッジの印象はどこか高橋由一っぽさがあるような気がするのは私だけでしょうか?
私の勝手な解釈ですが、西洋の絵画を直接見る機会が極度に限られた状況で日本人が描くと明暗の全体の流れより部分部分の表現が強くなってしまうのではないでしょうか。

そして1930~1933年に渡欧します。
普通、画家がヨーロッパに行けば、現地で高名な画家を訪ねたり師事したりと何らかの交流があるものですが、自意識の強すぎる野十郎は交流など一切なく一人で当地の絵画を見て回ったとのことです。

それでも地頭の良かった(であろう)野十郎はより自然な写実表現を身に着けたようです。

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「秋葉散る頃」「村中の秋」(図録より)
初期の過剰な線のうねりは少なくなり、明暗や色彩もだいぶ自然な見え方になっています。
特に紅葉した秋の風景は良い感じです。

帰国後、戦前~戦後と作品的には連続性があり順当に進化していっているように感じました。
やはり、ヨーロッパで自然な写実表現を身につけて日本国内の風景や静物などを緻密に描くようになります。
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「御苑の春」(図録より)昭和23年以降
わずかに枝がうねってますがだいぶ自然な表現です。
真ん中に巨木を配置したシンプルな構図。

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「流」(図録より)昭和32年頃
山中の渓流に絞った画面を緻密に描いています。
筆致が細かくなっているのも興味深いです。

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「睡蓮」(図録より)左昭和40年頃・右昭和50年
モネを連想せずにはいられない主題ですが、表現は全く異なります。
どちらかというと色面で見せる日本的な表現。

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「カンナとコスモス」(図録より)昭和29年
だいぶ収まったとはいえ、やはり植物を描くと線がうねる?!
かなり固有色を大事にしています。

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「ぶどうとりんご」昭和29年(図録より)
果物を描いた静物画は多く残っています。
この辺の作品からはどういう手順で描いたのか想像しました。
おそらく最初にモチーフの線を決めて、茶系で陰影表現(わずかにのぞいて見える)…その後固有色を部分部分塗り絵のように置いていく…そんな感じかな?

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「山道」(図録より)昭和38年頃
まさに何の変哲もない山道。
うちの近所にもありそうな風景…ですが、画面左右下側にある草のカーブが揃い過ぎているような気がしませんか?
この辺は野十郎によって作られていると思いました。

何となくですが日本人の描く風景画は雪景色が多いのでは?という疑惑を感じる私ですが…
野十郎も描いていました。
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「雪晴れ」(図録より)昭和33年
長野県らしいのですが、こういう風景…新潟県でもよく見ますよね。

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「積る」(図録より)昭和23年以降
本作で描かれているのは山形県の風景らしいですが…こんなにびっしり雪が降っているところを描くのは珍しいでしょう。

最後の展示室では光と闇の表現がテーマでした。
中でも特に珍しいのが目を閉じたときに「見える」画像を絵にした作品。
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「無題」(図録より)昭和42年頃
瞼を透過してくる光を描いたのでしょう。
こんな画題を思いついたのは他にないでしょう。

太陽の光を描いた作品もありましたが、夜空の月を含んだ風景画がとうとう月だけになってしまったというのがこれ↓
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「月」(図録より)昭和37年
ミニマリスト野十郎です。
ただ、要素をそぎ落としていくとどこかで「これ以上進めない」ラインが出てきそうなものですが。

シンプル、ミニマムを極めたらどうするか…野十郎の回答は「同じものを繰り返し描く」
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図録表紙になっている「蠟燭」
今回の展示でも何枚もの「蠟燭」が並んでいました。

野十郎が活動した大正~昭和の時代というのは絵画史上それまでの具象画がどんどん解体されていったわけですが、画壇と距離を保ったからこうした写実を突き詰めていけたのでしょう。
それが、写実を再評価する近年の流れから話題になってきたということでしょう。

技法的にはチクチク細かい筆致で部分を埋めていく描き方で、個人的にはどうかな?と思うところもありますが、シンプルに画面の要素を絞っていく構図など非常に面白かったです。

解説動画がアップされています。








なお、最後に鉛筆で蠟燭の炎などを緻密に表現している現代の作家、秋山泉さんの作品も展示されていました。
そちらも面白かったですね。



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