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アーティゾン美術館です。
東京駅八重洲口を出て少し歩いたところにあります。

かつてはブリヂストン美術館と呼ばれていましたが、2015年からビル自体を建て替えるため長期休館。
一昨年の2019年より現在の形でアーティゾン美術館として開館したというわけです。


ブリヂストン時代は充実した常設展示をよく見に行ったもんですが、アーティゾンになってからはネットでの事前予約が基本…ということになりちょっと足が遠のいた感じでした。

しかし今回、興味を惹かれる展示があったため意を決して向かいました。
到着してチケット提示から受付…続いてエスカレーターで3階へ。

美術館の展示スペースとしては4~6階のフロアが使われています。
一気に6階へと上がり下へ降りながら各階を見ていきます。
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最初6階は収蔵作品と現代作家とのジャムセッション。

明治期の青木繁の作品を元に、画中の人物になりきる作風で知られる森村泰昌氏が作品を展開する<M式「海の幸」>という展示です。

冒頭、青木繁の自画像とそれになりきった森村作品が並び、続いて青木の代表作が並びます。
そして重要文化財である「海の幸」
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10人の人物が裸で海岸を歩いています。
彼らは長い銛を持ち、獲物の大きな魚を運んでいるように見えます。

重要文化財指定ですが、よく見れば不思議な作品です。
画面のタッチは荒々しく両端の人物は明瞭さに欠けますが、右から4番目の人物だけは顔の表情が克明に描かれています(顔が白くてちょっと志村けんの殿様っぽいですが、青木繁の恋人という説も)

この「海の幸」を元に森村泰昌氏が10点の作品を展開していくというのが今回の企画なのです。

10点も何をどう表現しているのか。
10人の人物が横に並ぶ構成を踏襲しつつ明治から現代までの日本の歴史、さらには未来へ…と思ったら最初とつながり、循環するかのような作品群になっていました(展示も丸く一周するように配置されていました)

展示はその制作過程から入ります。
森村作品は写真を基本としていますが、今回の背景は幅数十センチのジオラマで作っています。
完成作品は一点の幅が3mほどですので実物を大幅に拡大して画面にはめ込まれます。
これで写真の克明さがなくなり、あたかも絵画として描いたかのようなピクセルの粗さが出てくるのです。
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最初は青木繁「海の幸」の再現。

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次は明治の日本ということで、日露戦争当時の戦艦三笠が大海原を進む模型。

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大正から昭和初期にかけてのモダニズム。
シュルレアリスムの古賀春江の作品がモチーフ。

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褐色系モノクローム的な表現の荒れた海は太平洋戦争の舞台。

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瓦礫と廃墟は敗戦から復興する日本。

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再び青木繁的な背景は学生運動が最高潮に盛り上がった時代の背景。

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ご存じ大阪万博、太陽の塔は明るい未来を信じる時代の気分を表す背景。

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東京の繁華街は80年代~90年代の日本が繁栄した時代の背景。

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再び海岸に戻った景色は現代の日本でしょうか。

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最後は朝日が昇る(?)海岸で未来への背景?

そして興味深かったのは…
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画面の明暗と色彩のエスキース。
ちゃんと絵画的な画面を作るべく検討がなされていたのです。

写真プリントの手法ですが、狙った色が出るよう調整されているのです。
普通に撮られた写真とは全く異なる「作られた画面」であり、その意味で絵画と同じなのだと思いました。
さらに作品表面にはアクリルかなにかの透明メデュウムが刷毛目が出るように塗布されて、これも絵画的なテクスチュアの表現になっています。

その他、画中の人物になりきるための衣装や制作中の様子をとらえた映像の展示もあり立体的にプロセスを感じることができます。

そして出来上がった10の画面。
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M式「海の幸」第1番 : 假象の創造
本作に関しては、元作品への「なりきり」ですね。

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M式「海の幸」第2番 : それから
「海の幸」が描かれたのが1904年(明治37年)、同じ年に日露戦争が始まりその後の第一次世界大戦でも日本は戦勝国となり国際的地位を高めていきます。
その当時の軍人や西洋風スタイルの婦人を並べて成りあがっていく日本を表現しているのでしょう。

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M式「海の幸」第3番 : パノラマ島綺譚
大正~昭和にかけて戦前の日本にもモダニズムの波が届き…「モボ(=モダンボーイ)」「モガ(=モダンガール)」なんて言われたりしたそうです。
1920年代~1930年代あたりの表現でしょうか。
画面上時間軸は向かって右から左へ流れているようですが、本作では右端は第一次大戦の従軍看護婦、左端は太平洋戦争当時の女子学生であり、2つの大戦間を現わしているようです。

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M式「海の幸」第4番 : 暗い絵
これは明確に戦争の現場を表現した作品です。
敵兵の姿はありませんが、激戦の兵士を藤田嗣治の戦争画的な要素も含みながらの画面になっています。

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M式「海の幸」第5番 : 復活の日 1
1965年の東京オリンピックで日本は戦後復興した姿を世界に示した…という画面。
右端の人物だけジャケットを着用せず日の丸の旗を地面に落としているのですが、もしかしたら2021年に開催された2回目の東京大会に対する肯定しきれない感情表現かもしれません。

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M式「海の幸」第6番 : われらの時代
1969年東大安田講堂事件など学生が政治運動で盛り上がっていた時代を表現した画面でしょう。
木の竿と旗(?)で「海の幸」の画面構成要素と共通点が多いですね。

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M式「海の幸」第7番:復活の日 2
1970年の大阪万国博覧会。
これも戦後復興、明るい未来を信じる空気感を表現しています。
衣装は60年代からの未来的でサイケな色調。

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M式「海の幸」第8番 : モードの迷宮
1980年代~1990年代初期のバブリーな日本の繁栄を表現。
ボディコン、セーラー服、ギャル、メイド等…この時代は若い女性のスタイルが特徴的。

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M式「海の幸」第9番 : たそがれに還る
現代の表現ですが、ここで人数が減って4人しかいません。
ガスマスクやサージカルマスクは環境汚染(放射能?)や新型コロナウイルスを想起させます。

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M式「海の幸」第 10 番 : 豊穣の海
未来なのか歴史の行き着く先なのか…定かではありませんが、とうとう画中の人物は一人きりになってしまいました(しかも土偶になってる)
もしかしたら歴史は一巡りして、縄文時代のメンタリティに回帰してしまうのでしょうか。
そして土偶人間がつかむ棒状のものは実は最初の画面の中で誰がつかんでいるか定かでない銛だというのです。

これら10の大画面作品を見た後、森村氏が青木繁の「海の幸」について語りまくる映像作品で締めくくるようになっています。
作者がこれほど長時間語るというのは極めて珍しいと思います。
青木繁の作品の解釈、時代の中での位置づけなど非常に面白い内容でした。

現代美術というのは、長い美術史を踏まえての歴史文脈の意識が不可欠と言われます。
また、歴史画というのは美術のカテゴリーでも高度であるとされた時期もありました。
この展示はそういった歴史的な時間要素を取り込んだ意欲作だと感じました。

作品リスト(PDFファイル)

本展示は2022年1月10日まで
5階で展示されていた印象派関係の展示はまた別項で…

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森村泰昌氏の著書