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1980年代、漫画の世界でそれまでの表現を一新してしまった大友克洋。
その代表作にして自ら監督したアニメ化作品です。
監督を務めるだけでなく、絵コンテなど画面作りの細部にわたってコントロールしています。

作画監督はなかむらたかし氏。
本作以前から未来警察ウラシマンで大友克洋的な線のキャラクターを描いていました。

オリジナルは1988年7月公開。
時代的には手描きセルの最終世代、デジタル映像はごく一部に使われているのみ。
おそらく手描きでの限界まで細密さを追求した仕上がりではないでしょうか。

作品中、時代は2019年。
なんと2020年東京オリンピックを予言した(偶然ですが)として一部で話題になっていました。
現実は新型コロナウイルスの影響で翌年に延期となってしまいましたが、この4月に合わせて4Kリマスター版のブルーレイ発売と劇場公開となったそうです。

ストーリーは1988年、新型爆弾で東京は壊滅(第3次世界大戦らしい)…そこから31年後が舞台。
東京湾内に埋め立て地の様にネオ東京という高層ビルの立ち並ぶ都市ができています。
翌年(2020年)には壊滅した旧市街でオリンピックを開催すべくさらなる復興が進んでいます。

しかし、街の雰囲気は頽廃的というかどこか混沌とした状態で、政治的には少人数の最高会議が全て決定していて、与野党の対立・駆け引きに政商の暗躍、軍まで絡んでいます。
さらに反政府組織(昭和の過激派を彷彿とさせる)や新興宗教まで登場して世の中が騒然としている描写になっています。

ネオ東京の暴走族、金田と鉄雄を軸に物語は展開します。
そもそも旧東京を破壊した爆発の発生源は一種の超能力で、それを行ったのはタイトルの「アキラ」です。
アキラの他にも子供の姿をした超能力者が数名いたのですが、ひょんなことから鉄雄にもその「素質」があるとして「ラボ」と呼ばれる施設に連れ去られます。
前半は金田が鉄雄を救出しようと反政府の人間と活動します。

ですが…鉄雄は徐々に能力を強化させ、自分でラボを破壊しながら脱出してしまい…
東京オリンピックのスタジアムで能力が暴走し始め…大騒ぎ!

もう、ごちゃごちゃ揉めてる最高会議の言うことなど聞いていられない!
…と、アーミーの指揮官である「大佐」はクーデターで全権掌握。

金田・アーミー・ナンバーズと呼ばれる能力者(とその代弁者のケイ)が鉄雄と対峙し…最後はまたも東京は壊滅し、鉄雄は能力者達とどこか(異次元?)に消え去ったのでした。

…とあらすじを辿ると、要するに超能力者ドッカーン!系なのですが、圧倒的なディティール描写のおかげでエンターテイメントとして成立しているように思います。

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ここからは個人的な感想。

やはり大友キャラは人間の美化を拒否している故に、リアリティは感じますが感情移入は難しい。

また、アフレコではなくプレスコ(先に音声収録しそれに合わせて作画)という手法でキャラクターのしゃべる演技がしっかり作れるとこを狙っているのでしょうが…個人的にはややクドく感じたのでした。

さらに制作された時代を感じた部分。
金田が反政府組織の構成員であるケイをナンパする場面…まさに80年代の軽いノリ(うる星やつらの諸星あたるに近い)
私はリーサルウェポン2でパッツィー・ケンジットをナンパするメル・ギブソンを思い出しました(´Д`)

あとはキャラクターの服装。
ウエスト丈のブルゾン上衣に比較的細身のボトム。
これは制作当時のスキーウエアのシルエット・アウトラインと完全一致です。
ちょっと映画製作時点から数年後になりますが80年代後半のスキーウエアの特徴のわかる映像↓


厳しい言い方をすれば2019年を予想した服装を想定すべきだったと思いますが、制作していた時に周囲で見られた要素をそのまま使っているわけです。

予測困難ならば、時代性不明な衣装を設定しても良かったわけで、例えばスターウォーズは和服・柔道着などをアレンジして時代性を感じさせないことに成功してますし。

携帯電話・スマホなどがこれほど普及するとは予測困難だったでしょうから大目に見るとしても、服装は何とかならなかったかなぁ…。


この「AKIRA」という作品、コミックもこのアニメも後世の作品に影響を与えたといわれています。
今回、映画版を見て感じたのは7年後の1995年にTVで放映されたエヴァンゲリヲンへの影響。

・壊滅的な災厄があった(アキラの起こした爆発・セカンドインパクト)

・元々の東京は壊滅して新しい東京が建設されている設定(ネオ東京・第3新東京市)

・少人数の会議で方針が決まる(最高会議・ゼーレの会議)

・「アキラ」が封じ込まれているのも、セントラルドグマも地下深く。

・ビジュアル的にもネオ東京とネルフの施設には共通性がある。

最後に…何度か出てくる下水の汚さが妙に記憶に残ったのでした。
いずれにせよ、手描きセルアニメの一つの到達点として歴史に残る作品でしょうね。

「AKIRA」4Kリマスター公式サイト


東宝の2020年公開デジタルリマスター版に関する記事


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大友克洋の初期傑作(日本SF大賞)

矢作俊彦原作の軽妙さのある初期作