20200228_051131478_iOS
三浦篤著 2018年刊

本書全体の構成は、過去の美術作品からのマネへの影響、マネの生きた同時代の影響、マネ以後の美術への影響と大きく三つに分かれています。
それぞれ具体的な実例を挙げて述べられていますので、とても分かりやすい。

日本人は19世紀フランスの印象派、ポスト印象派の絵画が大好きです。
でもって、印象派の画家たちと仲の良かったマネもなかなかの人気なのですが…当時の印象派展には一度も参加していないし、彼らとは何かが違う。
私も含めて美術ファンが何となく感じていたことを懇切丁寧に語るのが本書です。

モネに代表される典型的な印象派の本質は、光の反射が空気を通して目に届き視覚として認知する現象の再現だと私は思っているのですが、マネの作品はその時代性を表現していますが古典とされる美術作品の要素から組み立てられたものが多く、やはり根本が異なっているのです。

おそらくマネ以前、古典の構図は「手本」とするものでそれ以上のものではなかったと思います。
しかし、マネの場合は構図を引用しながら全く違う意図を表現する画面に再構成してしまったわけで、それがマネ以降の美術の在り方を変えてしまったのですね。

その当時、みんな気づいたのでしょう「こんなことやっていいんだ!」
そして、マネ自身も引用される側になっていったというのです。

ちなみにドガの画面も巧妙に組み立てられていますが、イメージの引用元(というか構図の発想元ネタ)が古典絵画ではなく浮世絵からのものが多いという点が両者の作品の印象の違いになっているのでしょう。


あと、私は全く知らなかった要素としてマネの展示戦略の部分は非常に興味深いです。
サロンや落選展への出品作と展示の並びにまで言及し、その意図を読み取っていくというのは、今となってはバラバラで収蔵されている作品が最初にどういう意図で発表されたか…書物ならではの内容と言えるでしょう。

それにしてもマネの絵に登場する人物は画中で目線を合わせないですね。
これも近代市民社会の自立した人々の感覚を表しているのでしょうか?
それとも絵画を構成するピースとして、人物像は感情抜きにされてしまったのか?

面白い本でした。
***************************
マネ関係の書籍