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第一次世界大戦中、1917年の西部戦線フランスが舞台の作品。
監督はサム・メンデス。

あらすじはシンプルで…突出して連絡のつかない連隊1600人がドイツ軍を攻撃しようとしているが、そのまま部隊が前進するとドイツ軍の罠にはまり全滅しかねないことが航空偵察で判明。

その攻撃を止める命令書を2人の伝令兵が持っていくが、その途中ドイツ側が占領していた地区を通らなければならない…任務は成功するのか?

予告編 ↓


なぜか日本国内の宣伝は「ワンカット」が強調されていますが、それは正確ではありません。
「カメラを止めるな!」が当たったことを利用しようとしているのでしょうか?

私の印象は、主人公が認知した時間、出来事をリアルタイムで観客が追体験できる構成といったところです。

メイキング映像も公開されています。

過去、様々な戦争映画が作られてきましたが「プライベートライアン」(1998年)が戦場での現実感を追求してエポックメイキングな作品となり、以降の作品に大きな影響を与えました。

「プライベートアイアン」と「1917」は少人数の兵士が「普通でない」任務のため敵のいる戦場を進む...という構図が共通しています。
今回の「1917」ではさらにカメラを主人公の近くだけに置いて観客に体感させるかのような表現で新機軸をうち立てたといえるでしょう。

…なのですが、現実感だけではないファンタジー感みたいなものも感じます。
実はそこがこの映画の味なのではないかと思います。


第一次世界大戦と言えば、野砲の砲弾が降り注ぐ中でライフルや機関銃の撃ち合いという印象がありますが、この作品ではその痕跡を表現しますがドンパチ撃ち合う場面は非常に少ないのです。
戦場なのに静かな場面が多い…というか冒頭主人公たちが花畑で昼寝しているところから映画が始まるほど。

物語の前半…塹壕から敵地に向かう途中、人間の死体だけでなく牛馬まで悉く殺戮されている光景から戦場の非情さが伝わりますが、敵兵の姿もなく静かに物語は進行していきます。

前半を引っ張るのはブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)で、伝令に向かう連隊に兄がいて何としても任務を完遂しようとする理想主義者として描かれます。
対してスコフィールド(ジョージ・マッケイ)は任務の危険性から目立たない夜間に移動しようと言うなど現実主義者として描かれます。

最初は静かですが…ドイツ側の地下壕でブービートラップが爆発したり、その先の廃屋では空中戦に敗れたドイツ戦闘機が自分達の方に落ちてきて大慌て!
…と徐々に戦闘の現実が彼らに迫ってきます(同時に彼らと同じ目線の観客にも)

ここで理想主義的なブレイクはドイツパイロットを燃える機体から救出しますが...なんとドイツ人にナイフで刺されて命を落としてしまいます。
最初引っ張っていたブレイクが主人公かと思っていると(えっ!ここで死んじゃうの?!)という展開( ゚д゚ )

ここでスコフィールドの中で何かが切り替わります。
自分が行かなければ1600人を救うことはできないという状況に置かれ、任務完遂をブレイクと約束するのです。

直後友軍の部隊に出会ったり、ドイツ兵との撃ちあいになったりして、スコフィールドは気絶し…気が付くとすでに夜!

その夜のシーン…破壊された街の光景が昼間とは打って変わって…火災と照明弾の光の中、夢の中のような幻想的な画面になっていました。

私がイメージしたのは旧約聖書のソドムとゴモラの街です。
例えば絵画に描かれたものだと...こんな感じ↓

ヨアヒム・パティニール「ソドムとゴモラの滅亡がある風景」(16世紀)
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ジョン・マーティン「ソドムとゴモラの破壊」(1852年)
John_Martin_-_Sodom_and_Gomorrah

悪夢のような夜の街でドイツ兵から逃げ回っているうちに飛び込んだ民家で本作唯一登場する女性に出会います。
女性はどこの子かわからない赤ん坊を保護していて、ずっと死と破壊を描写してきたこの作品で初めて「生命」の要素が入ってきます。

しかし、スコフィールドは使命を果たさなければならない!
引き留める女性を振り切って先に進みます。

途中、遭遇したドイツ兵を殺害しながら進みますが、追い詰められ川に飛び込みます。
しばらく流された挙句、岸に這い上がった先にイギリス兵の集団が!

すでに攻撃開始の朝になっていたのですが、アカペラでの”I Am a Poor Wayfaring Stranger”を皆で聴いているという場面(しかも時間が長い!)
曲名日本語では「貧しい旅人」もしくは「さまよえる旅人」
古い民謡らしいのですが、歌詞の中で「ヨルダン川」という言葉が出てきて、これまた旧約聖書の世界を想起したのです。
宗教的な表現だと思いました。


さて歌が終わると、総攻撃開始です!
スコフィールドはそれを止めねばなりません。

しかし指揮官のマッケンジー大佐(ベネディクト・カンバーバッチ)は前線の一番先の指揮所ということで、攻撃第一波の突撃が始まる中スコフィールドは一人走るのでした。

結果、任務は果たされスコフィールドはブレイクとの約束を果たすのですが、安堵感に包まれるラストシーンは最初の景色とそっくりで時が一回りしたかのような印象を受けます。

リアリティだけを期待すると裏切られたと思うかもしれませんが、それとは違うファンタジックな「味」を持った作品です。





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