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正直「また、印象派かよ」…と思いつつ、展覧会のメインビジュアルにもなっているマネの「フォリーベルジュールのバー」が見たくて、東京都美術館に行ってきたのでした。

結論から申し上げると、かなりアカデミックな…という表現が適切かは(?)ですが、作品を分析的に読み解くかのような展示で興味深かったですね。

それもそのはず、コート―ルド美術館はロンドン大学付属コートールド美術研究所で研究対象となる作品を所蔵しているのだそうです。
美術館の名前は聞いたことありましたが、教育機関的な機能もあったとは今回初めて知りました。
また、現在コート―ルド美術館は全体を改修工事しているためしばらく閉館していて、それ故に重要作が数多く出品されたとのことです。

公式WEBサイトを見ればその辺の事情が書いてあります。


もう一つ、公式Twitterアカウントがなかなかイイ感じで、出品作品全点を画像入りで解説ツイートしています。要チェック!


展示全体は大きく3つの切り口で作品にアプローチしています。

1.画家の言葉から読み解く
2.時代背景から読み解く
3.素材・技法から読み解く

さらにサミュエル・コートールドが数多く収集した画家の作品はまとまっていました。

まずは、セザンヌ。
私個人としてはそれほど好みではないのですが、彼のいくつかの表現傾向が上手く網羅されていたように思います。

なかでも気に入ったのがこの作品。
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ポール・セザンヌ「鉢植えの花と果物」1888-1890年頃
セザンヌの目指した立体感が果物や葉に見られると思います。

あと、パレットナイフだけで描いた珍しい作品も。
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お次はルノワール。
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ピエール=オーギュスト・ルノワール「桟敷席」1874年
※詳細解説の対象
ルノワールが印象派的な手法を使っていた前期の重要作には違いありません。

「時代背景から読み解く」のセクションでの展示でしたので、19世紀当時観劇に集まった人々は最新ファッションを誇示しながら、他の観客からお付き合いする人を物色しているわけです。
そうした時代背景も風刺画の版画などで表現されていました。

ルノワール前期の風景画の典型的な表現が見られる作品も
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ピエール=オーギュスト・ルノワール「春、シャトゥー」1873年

そして展示の最後の方でゴーガン。
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ポール・ゴーガン「ネヴァーモア」1897年
※詳細解説の対象


「素材・技法から読み解く」のセクションでは未完成作品を見ながら制作プロセスを感じるものもあり面白いなと思いました。

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オノレ・ドーミエ「ドン・キホーテとサンチョ・パンサ」1870年頃
人と馬(もしくはロバ?)が大づかみな表現で塊りとして表現され、抽象性すら漂います。

ドガの未完成作品も印象的でした。
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エドガー・ドガ「窓辺の女」1871-1872年
茶色の下塗りから描き起こしています。
これだけの表現でも女性の上半身から窓、さらに屋外まで空間ができています。

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エドガー・ドガ「傘をさす女性」1870-1872年
白っぽい下地から黒主体の絵の具で傘の陰になった頭部を表現しています。

顔つきのアウトラインはほぼできています。
流石はデッサンの名手ですね。

技法を深掘りする作例としてモディリアーニの作品が…
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アメデオ・モディリアーニ「裸婦」1916年頃
身体のペタペタしたタッチに比べ、顔は丹念に塗りこんでいるとか、髪の毛は絵の具を引っ掻いて下地を線状に出すことで表現したりとか…いわれてみて初めて気づく工夫もあるものですね。


そしてエドゥアール・マネの「フォリー=ベルジュールのバー」
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私が高校時代に画集で見て、一発で引き込まれた作品です。
※詳細解説の対象

真正面をむいて何とも言えない表情(無表情か?)でこちらを見つめるバーメイド。
ゆるぎない構図で感情的な動きが排され記号化された人物。
なのに、魅力的に描かれて…これぞ近代的表現だと感じたわけです。

しかも、背後の鏡に映る像は意図的にずらされていて、現実に見える画というより二次元の画面としての面白さを優先する辺りも「ヤルね!」と思わされるポイントです。

それでいて、バーメイドと前景は緻密に描かれているのに、背面の鏡の中の世界はそれより粗い筆致になっていて、トータルで空間を表してもいるのです。

作品の他に書簡の展示もあり、セザンヌの手紙は彼の考え方が明瞭に示されていて興味深いですね。

総じて印象派、後期印象派の作品を見た目だけでなく、その成り立ち技法等も深掘りしながら理解できるという面白い展示でした。
作品数60点というのも、数字だけ見れば昨今の傾向からは少なめにうつりますが、一つ一つをじっくり見ていく展示なのでかなりの満足感でした。


展示を出ての物販ですが、なかなかデザインがキマってました。
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フォリー=ベルジュールのバーTシャツ
パッケージの帯や衿裏の織りネームに見られるロゴが上手い。

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各画家の生没年ラインをデザインしたTシャツとトートバッグ
これも面白い!

さらに、図録が非常に良いですね。
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表紙には「フォリー=ベルジュールのバー」が使われていますが、その外枠はエンボス加工で凹凸がつけられています。

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展示室で詳細説明がついていた作品のページには透明なシートに説明書きが印刷され、作品の写真に重ねられるようになっています。
ありそうでなかった!

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参考書簡のページは他より一回り小さくなっています!

各作品の写真の印刷色もかなり綿密に調整されているのでしょう。
違和感を感じるものがありませんでした。

最近図録はあまり購入しないのですが、これは(欲しい!)と思いました。
…ですが、展示を見るときに財布はロッカーに預けてしまい物販では買えず…しかし安心してください!
図録だけは美術館正面玄関正面奥のミュージアムショップで売っていました!

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