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2017年6月25日、国立西洋美術館で開催中の「アルチンボルド展」を見に行ったわけです。

このアルチンボルドって人ですが…下手すると美術史の中でもキワモノ扱い、変わり者扱いになりかねないのですが、これでも歴史上はハプスブルグ帝国の三代の皇帝に仕えて大活躍した人物だったんですね。

年代的には盛期ルネッサンスと言われる「ダ・ヴィンチ・ミケランジェロ・ラファエロ」の三人の完全に後の世代。
ベネツィア派のティツィアーノとは前半生がやや被っている。
スペインで活躍したエル・グレコとはかなり活動時期が被っている。

つまり、ルネッサンスとバロックの間の「マニエリスム」期にあたる作家ですね。
ルネッサンスで古典的な(かっちり端正な)表現が出尽くして…宮廷芸術としてもっと知的好奇心を満たすような表現が求められた時代の芸術です。
(その後のバロックとなると一般民衆に訴えかけるダイナミックな表現に移っていくようです)

さて、このアルチンボルドの作風というと…とにかく個々の描写はリアルなものを組み合わせて、全体として見ると人物像など全く違うイメージが浮かび上がるという表現を得意としていました。

その個々に描写された自然物が、当時宮廷に集められた博物学的な知識に裏打ちされていたということも展示で明らかにされています。

大航海時代で収集された世界各地の情報がマニエリスムの時代には宮廷に集まり、それを「ネタ」として芸術として表現され、高度な知的な思考の遊びとして扱われたわけです。
その後、バロック期以降に情報が民衆に拡がり…芸術の大衆化につながる…というストーリーでしょうか。

さて、本展示でのハイライトは「寄せ絵」で表現された四季の連作です。
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「春」スペインのサンフェルナンド美術アカデミー所蔵
…これは本当によく描けています。
花々や植物が実に繊細に描かれていて、それでいて全体としては人物のプロフィールとして実に美しい表現になっています。
これで展覧会グッズ作れば、花好きな女性に大人気ウケあいな関連グッズとして大ヒット間違いなしなわけです。

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「夏」デンヴァー美術館所蔵
実はこの作品が、大航海時代に新大陸からもたらされた「新種」の植物が大量に表現された作品だそうで、それ以前では成立しえないのです!

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「秋」デンヴァー美術館所蔵
秋に収穫できる「ハーベスト」なアイテムで構成されています。

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「冬」ウィーン美術史美術館所蔵
四季の中でも「冬」は神聖ローマ皇帝の年度更新(?)を示す季節の表現として仕掛けが隠されているそうな。
藁の編み物のマント(?)の折り柄にはマクシミリアン皇帝の「M」の字が編み込まれています。



…で、四季の連作に対する、古代四台元素をネタとした作品があり、それらを対比した展示があったわけですね。
アリストテレスの時代に唱えられた四大元素説を表現した作品群です。
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上画像の作品は「水」を表現するため海の生物を寄せ集めて人物像を表現した作品。
こうなるとややグロテスクな印象を受けますが、よく描けています。

残念ながら、四台元素の他の作品でアルチンボルドの真筆(?)というものがいくつかあったわけですが、まあ時代の空気は感じられたので良しとしましょう。


さて、ハプスブルクの宮廷を退いて、故郷のミラノで晩年に制作した作品も展示されていました。
まるで「だまし絵」です。
さかさまにすると、一見したイメージとは異なった別のイメージが立ち現れてきます。

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帽子をかぶった男性に見せかけた寄せ絵に見えますが。
これを上下逆にすると、野菜をボウルに盛った構図の画にしか見えません。


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最晩年に描かれた「寄せ絵」的肖像。
お肉と魚の寄せ集めでとある人物の肖像画に仕立てています。
実際、あまりにモデルに似ていて当時大いにウケたとのことです。

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「司書」というタイトルで…おそらくアルチンボルドの知人がモデルになっているのでしょう。
表現がより大胆になっているように思います。

さて、アルチンボルド自身の自画像もあるにあるわけです。
下画像は、テープ状の紙を寄せ集めたという体裁の自画像です。
これだけでも宮廷の知的な遊びという環境は容易に想像がつくというものです。
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さて、唯一自身を「まともに」描いた自画像の素描も展示されてましたよ(´∀`)
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知的な眼差しが印象的な一枚です。

一通り見て、自然物の素描などでアルチンボルド本人の作品が全くなかったのが残念ではありましたが「四季」が揃っていたのは非常に貴重でした。

驚いたのは、ミュージアムショップに女性が長蛇の列を作っていたことです。

最初驚きましたが、商品を見て納得!
花を集めて人物像を表現した「春」を中心にして、華やかなアイテムをそろえていました。
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はやりの柄入りマスキングテープで「春」を描こう!という商品。

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こちらのトートバッグやTシャツもなかなかのセンスです。
ホントに最近の展覧会グッズは「売れる」ようによく考えられています。

さて、西洋美術館のよいのは、企画展以外の常設展も極めて見ごたえあるところ。
今回、版画・素描展示室では「ル・コルビュジェの芸術空間」と題して、この西洋美術館本館の設計をしたコルビュジェの構想過程が展示されていました。

 個人的にはこれがすごく面白い!
頼まれてもいないのに、美術館以外にも演劇空間も併せて総合芸術公園として構想していたりとか。

渦巻き状の構造を基本に収蔵品が増えていったら、どんどん外側に増築するアイデアとか考えながら、日本側と実際の状況をすり合わせるうちにどんどん現実的な内容に落ち着いていく過程など…まさに「理想と現実」!

最後に新収蔵作品。

新収蔵作品、ドガ先生の踊り子! サラサラっと描いているのにちゃんと絵になってる( ꒪Д꒪)

樋口 明広さん(@insidercharmant)がシェアした投稿 -


私が印象派の作家で最も敬愛するエドガー・ドガ先生の「舞台袖の3人の踊り子」

発想の重要なところはしっかり表現して、力の抜くところは「ちょい、ちょい」という感じでメリハリバッチリです(´∀`)

要するに、「アルチンボルド展」はかなりのオススメ!