※本記事はブリザード教会のホームページ「業界の実際」コーナーより一部加筆修正したものです。
21世紀の現在、スキーウエアのカタログ写真といえばフリースタイルでパウダースノーを豪快に滑るものが多い。
その他、競技志向の製品には現役アルペンレーサーかデモンストレーターが着用している写真が使われる。
普通のゲレンデユースのウエアは普通のファッションモデルが着用し、スタジオでさっさと撮ったものを使う。
ところが、かつてのカタログではゲレンデウエアでも、プロモーション契約を結んだ様々な人がウエアを着て写っていたものだ。
アルペンレーサーといっても引退後のユーリ・フランコやボーヤン・クリジャイも登場したし、変わったところでは登山家のメスナーというものもあった。
彼らのことを社内では「プロモーションキャラクター」もしくは略して「キャラクター」と言っていた。
「キャラクター」で世間を驚かせたところでは、「パイロット・スーツ」と称してF1ドライバーのアラン・プロスト、ネルソン・ピケ、リカルド・パトレーゼがカタログに登場ということがあった。(ベルガーもB社のウエアを着て登場していた)
当時は鈴鹿で日本GPが再開したころで、ホンダエンジンの活躍もありF1人気が急速に過熱してきた時代でもあった。
当時はスキー好きなF1ドライバー達が春スキーに集まるイベントがあって、F1の世界とスキー界はそれなりに交流があった。
そこで現役ドライバーによるスキーレースが行われており、パトレーゼとチェザリスの二人のイタリア人が火花を散らせていたという。
実際、パトレーゼのカタログ写真は結構良いポジションで滑っていたりする。
当時、スキー関係者が彼の滑りを見たところ、イタリアのCチームなら今でもいけるんじゃないかと言ったという。
プロストやピケは正直…まあ脚を揃えて滑っていますね…という印象の写真であった。
ちなみにベルガーはビデオをどこかで見たのだが、極端な閉脚スタンスで妙にくねくねした滑りだった。
↑ パイロットスーツ2年目のTVCMの映像
やはりこれだけの人達となるとちょっとクセがある人もいたらしい。
特にプロストは、スキー場でのカタログ撮影時にあまりに天気が良かったため、なかなかサングラスを外してくれなかった。という苦労話を聞いたことがある。
やはり当人の素顔を撮影できなければどうしようもない。
サングラス姿では下手をすると「別人のそっくりさん?」と言われかねないのだ。
「こんな日差しでサングラス取りたくないよ…」というプロストを
「日本のファンはあなたの素顔を待っているのです…」などと、おだて持ち上げて
「そうかい?ではしかたないな。」などと言わせてやっと撮影できたという話であった。
このドライバー達との契約はどうも正規のチームのマネージャーなどを通さずに直接個人的に契約したらしい。
さすがにいかに景気が良かったとはいえ、正規で何億もの契約はできなかったのだ。
こうして苦労してF1ドライバーをキャラクターにしたウエアは89年に発売された。
一般的には彼らの人気はものすごいものであったが、ウエアのセールスとしてはユーリ・フランコモデルに一歩譲った格好であったらしい。
強気に出てたくさん生産したが、消化するのにやや時間がかかったようだ。
私もこのシーズンの冬、店を見に行ったがユーリ・フランコモデルはどこも売り切れであったのに、プロストモデル、ピケモデル等はまだ入手可能な状態であった。
しかしこのシーズン、P社はスキーウエアを最終的にはほとんど全て売り切るという「伝説」を残している。
※普通、衣料品というのは多くの店頭で販売するため、それぞれの店で少しづつ残ってもそれらを全部集めると結構な数になるのもで、バーゲンセールやアウトレットで売り切るのが一般的。
まあ、当時は極端な昇り調子であったので逆に売れる機会を逸したのではないかということで、それはそれで問題になったようだ。
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