※今回初公開の内容です
前回の記事では、日本にスノーボードというものが入ってきて、スキーウエアメーカーがとりあえずそれ用のウエアを作ってみたあたりのお話でした。
1990年代半ば以降、スキーウエアの売上げが急降下を始めると、もはやスノーボードを無視してはウエアメーカーとしても成り立たないと思われた。
しかし、この世界で商売をするならばアンチ・スキーな人達と付き合わなければならない。
なにしろ、スキーはダサいという強烈な意識のある人たちなのである。
当然スキーウエアのブランドでは相手にしてもらえない。
そこで、新たにブランドを立ち上げることになった。
当時のP社社長が思いついた「X-NIX」という名前になり、それは今でも続いている。
ただ、ブランドを作ってもそれだけでは売りがない。
そこで、スノーボード発祥の地、アメリカのスノーボードナショナルチームのサプライヤーになった。
今でもそうだが、アメリカにおけるスノーボード競技のステータスはナショナルチームよりもXゲームの勝者の方が圧倒的に高かった。
だから、あっさりアメリカナショナルチームも取れたのかもしれない。
製品自体もかなり徹底してUSAっぽさを演出した。
サイズはすべてUSAサイズ表記、ウエアにつくラベルやネーム類もほとんど英語にしていたはずだ。
その広告からしばらく経って、東京都渋谷区千駄ヶ谷○丁目にあったP社にアメリカから手紙が届いた。
書いてある内容は、要するに「早く見てぇ~、もうがまんできねぇ~、死にそうだぁ~(I'm dying.I'm dying.)」というようなヤバイもので、とても正気の人物とは思えなかった。
なにかクスリでもやっていたのではないかと思うような文面に手紙自体も言葉では表現困難な幾何学的な折り目でたたまれていた。
さて、USAチームで冬にお披露目したX-NIXだが、製品としてはその次のシーズンからの展開になる。
当然、展示会を開くわけだが、そこで営業に向けて出された指示がまずは「とにかくネクタイ禁止」
当時、スキーの展示会はお揃いのブレザーにネクタイ着用、正式な商談だから当然なのだが、スノーボードは文化が違うのである。
スキーっぽさがあってはならない。なぜなら来場者はアンチ・スキーなのだから。
それから約20年が過ぎ、スノーボード業界の人達もそれほどアンチ・スキーとは言わなくなった。
ウエア自体も今では(2015年)むしろスノーボードウエアの方が色が明るく柄ものも多い。
柄の内容など、むしろ昔のスキーウエアを彷彿とさせる。
ただ、スノーボーダーも21世紀の現在では技術レベルにヒエラルキーができてしまい、技術向上が思うようにいかないとスノーボードを止めてしまう若者が相当いるらしい。
かつて、スキーで行き詰ればスノーボードに移ったが、今では雪山に行くこと自体を止めてしまうことが多いという。
実に残念な話である。
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