※本記事はブリザード教会のホームページ「業界の実際」コーナーより一部加筆修正したものです。


スキーウエアの歴史において80年代の前半までというのは基本的な素材技術が出そろった時代である。

水が浸入しないのに湿気は外に放出する「防水・透質」素材。
上記の「防水・透湿」の性質を持ちながら動きについていくストレッチ素材。
熱を逃がさない金属系の素材。
高品質な化学繊維の中綿。

と、まあ現在もスキーウエア・スノーボードウエアといえば基本的にはこの頃に確立した技術で出来ている。


さて、技術開発が一息つくと、80年代後半から90年代前半にかけてはデザイン面が恐竜的な発展(?)を見せる。
関越道が歴史的な大渋滞を起こしていた頃にスキーに行っていた方ならばきらびやかなウエアが記憶に残っているはず。
あるいはいまだにそれを着てたまにスキー場に向かっている方もいるのかも…。


ともかく機能的にある程度完成を見てしまうと見た目に走るのは歴史の必然というべきで、ありとあらゆる柄や金銀に輝くボタンや金具がウエアを彩っていたのである。
アパレルのノウハウのほとんどがスキーウエアにつぎ込まれたと言ってよいだろう。


そんな中でおそらくスキーウエア史上最大の暴挙といえるのがストーンウォッシュではないか。
とにかく一度縫いあがったウエアを石とともにガラガラと丸ごと洗ってしまうのである。
その結果、店頭で圧倒的な独自の存在感を放ってはいた。


しかし、ジーンズなどではポピュラーな手法であって珍しくもなんともないが、相手はスキーウエア、裏地も中綿もあるし、第一、雪が降る中で着用するものだぜ!


元々は提携関係にあったドイツのB社が開発したノウハウで、それを日本で再現したということなのである。
日本国内でも発売当時は結構人気があった。渋いデザインだったため、多くのP社社員も通勤着にしていたりした。

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具体的に述べると製造方法は次のようなことになる。
ある色に染めたナイロンの基布に異なる色の「顔料」をのせる。(極端な例では蛍光ピンクの基布の上に濃いブラウンの顔料をのせたりする)
通常、繊維製品に色をつける場合は「染料」を使うが、この製品群はさらに「顔料」を表面に付着させていた。
「染料」は繊維に浸透して色をつけるものだが、「顔料」というのはある色を持った細かい粒子の集まりである。
故に石が当たって「顔料」が剥がれ落ちると下地の色が現れて複雑な表面の表情が表現できるということなのだ。


このストーンウォッシュの素材はヨーロッパ製で、こんなに大胆なことを考え、実際に作るなどということはやはり日本のメーカーでは考えられないようだ。
ジーンズなどは落ちやすいインディゴの「染料」が石の当たりによって色が薄くなるという現象が起こるので、この「顔料」を使ったスキーウエアの現象とは根本的に異なる。
ドイツのB社が相手にしているヨーロッパのマーケットというのは「大人」のそれであって、スキーウエアといえどもストーンウォッシュなどすればどうなるかは、お客の方も良くわかっている。
そんなものを着る人は天候の悪いときにはスキーに出かけない。(あるいは別のウエアを着る)
ストーンウォッシュでなくとも「天候の悪いときには着ない」ウエアはB社のラインナップにはよく見られたものなのだ。


日本の場合は残念ながら、ヨーロッパとは違ってそこまで「大人」になっていなかった。(いまだになっていないか…)
高い金を出したならばどんなものでも防水は完全でなければならないと多くのお客が思っていたのだ。(いまだに思っている方も多いようだが…)
P社での場合は、表素材のすぐ内側に別の防水素材を当てて中まで水が浸入するのを防ぐ構造にはなっていた。
ただ、初年度のモデルについてはウエア表面が水をはじく「撥水」の加工はなされておらず、日本の湿った雪が降る中で着用していると表面がどんどん濡れてしまうのは避けられなかったのだ。
「大人」になっていない日本のマーケットではこの表面が濡れてしまうという現象は、少なからず問題になったようである。